日本人が大好きな「卵サンド」超絶進化中のワケ 過熱する「卵サンドブーム」の背景にあるもの

「卵焼きとパンの食感が口の中で一体になる」(天野社長)バランスにしている。予約販売の際は、あらかじめ受け取り時間を確認してから直前に作るようにしているという。防腐剤などの食品添加物は使わない。天のやは、『ミシュランガイド東京』で2015年版から毎年、お好み焼き店として、カジュアルに食べられるビブグルマンのカテゴリーで選ばれ続けている。

京都にある「伝説」の卵サンド

ブームの前にも注目されていた卵サンドがあった。それは京都で閉店した老舗洋食店「コロナ」のオムレツサンドを、2013年に継承した喫茶店「マドラグ」。後継ぎでない人が味を継承した、という話題性もあって、数年ほどメディアでその店や、京都の分厚い卵焼きもしくはオムレツのサンドイッチがくり返し紹介された。同じ頃、具材がパンの厚みの何倍も入るボリュームサンドがはやっていた。

サンドイッチの流行はその後も、ホットサンド、フルーツサンドなどと形を変えて続いており、その中の1つだった卵サンドが近年存在感を増している、という流れが要因の1つとしてある。

一部の店では分厚い卵焼きやオムレツを挟んだサンドイッチが人気だったとはいえ、基本的に関西でも、そして全国的にも、日本の卵サンドは長らく、ゆで卵をつぶしてマヨネーズであえたものが主流だった。卵サンドについて最も古いと思われる記述の1つは、1909(明治42)年刊行の『弦齋夫人の料理談 第二編』で、ゆで卵を裏ごしして、バターと辛子と塩を加えて練ったレシピが紹介されている。

それがやがてゆで卵をつぶす簡略系が広がり、今やさまざまなバリエーションに広がっている。天野社長は「卵は、和食でもイタリアンでもフレンチでも中華でも、必ず登場するじゃないですか。フレンチのソースなど、『これが卵?』と思うほど変形させることもあるし、硬さもいろいろある。自由自在に変形させられる食材」であることが、人気の要因ではないかと話す。

定番と異なる卵サンドが知られるようになり、卵の変幻自在な性質が再発見されて、独自のレシピで売り出す店が増えたことが、流行につながったと考えられる。

また、日本人は卵好きで知られる。肉食禁止の風潮がとくに強かった江戸時代に、卵料理は広まった。もしかすると、タンパク源として貴重だったことが卵食人気につながったのかもしれない。

どこか温かみがある味わいに癒やされる?

肉食が当たり前になった今も人気なのは、どこか素朴で温かみのある味わいが要因ではないか。コロナ前から硬めプリンも流行し、卵は最近人気が高い食材の1つと言える。

終わらないコロナ禍と、新たに始まったウクライナ戦争、そして迫りくるインフレ時代。不安材料がたくさんあるせいか、昔ながらの定番料理が装い新たにはやることが最近は多い。ドーナツ、ギョウザ、カレー。

あるいは、外国由来の新しい料理やスイーツが次々にはやることに疲れている人や抵抗感がある人も、懐かしグルメのバージョンアップなら手を伸ばしやすいのかもしれない。卵サンドに求められているのは、そうした安心感なのではないだろうか。

タイトルとURLをコピーしました