日本人が「安い給料」に今も甘んじている大問題 私たちの仕事は付加価値を生み出しているか

なぜ日本人の給与は安いのか?

その答えは簡単である。やっている仕事が高い付加価値を生み出していないからだ。給料をあげたいなら、付加価値を生み出す仕事をするしかない。問題は、どうやって日本人と日本株式会社(注:ここでは終身雇用・年功序列の旧来型の日本の企業を指す)がそのように変わっていくかにある。

国税庁の民間給与実態調査によれば、日本人の平均年収は約441万円(2018年)で20年近く変わっていない。GDP(国内総生産)が世界3位にもかかわらず、OECD(経済協力開発機構)の2018年調査によれば平均賃金は加盟国のうち35カ国中19位の水準だ。

■付加価値とは何か?

思い出してみると、私が銀行を経て外資系コンサルティングファームで仕事を始めたとき、いつも問われたのが、お前はファームに対して付加価値を生んでいるのか、チームに貢献をしているのか、ということだった。

一人ひとりのコンサルタントの付加価値とは、その人の売り上げで計られる。クライアントに高い付加価値を提供するコンサルタントは、引く手あまたで稼働率が高くなる。その一方で、時間当たりフィーに比べて、いい提言ができない人、付加価値を生み出せない人は、稼働率が落ち、年間の売り上げも下がる。当然、人事考課は悪くなっていくという仕組みが機能していた。

私が現在やっている弁護士の仕事も同じだ。クライアントに対して生み出す付加価値が、会社や事務所の売り上げを決め、それが個人個人の人事評価、そして、給与に反映されるという仕組みが出来上がっているのである。

だから、コンサルタントや弁護士は、付加価値を出そうとして徹底的に頑張る。

ところが、日本株式会社は違う。多くの日本の会社では、クライアントに付加価値を生み出すという意識が希薄化している。大企業であればあるほど、一社員とクライアントとの距離は遠くなり、付加価値を生み出そうという意識が消えている。

そもそも、日本の会社は、売り上げを伸ばし、利益を拡大することを第一目的に置いていないのではないかと私は考えている。こんなことを言うと、多くの人が「ウチはそんなことはない」という。しかし、アメリカの企業の平均ROE(自己資本利益率)は20%程度、日本企業の平均ROEは8~9%という現実を、どう説明すればよいのだろうか。

日本の会社にとっていちばん大事なのは、社員の生活を定年まで保証すること。つまり、日本社会の中での会社は、江戸時代の村と同じ。そこに入った村人が死ぬまで仲良く暮らしていける生命維持装置なのである。売り上げと利益を伸ばすよりも、安定して長く続いていくことが第一目的とされる。

だから、リスクのありそうな投資はしたがらない。会社に金をため込む。今の日本の一流といわれている企業は、新たな投資をせず、内部留保を積み上げ、株主へも社員へも十分に分配をしていないではないか。

こうした安定志向の組織では、社員たちの和が最も重要になるので和を乱すことが最も嫌われる。前例踏襲で、波風を立てず、関係部署の顔をつぶさず、上司の顔を立て、無難な仕事をしていく人が評価される。だから、仕事のポイントは、「根回しと忖度」となる。

■忖度社員の市場価値はゼロの現実

こんな根回しと忖度仕事を10年、20年も続けたら、社員の思考は停止する。何が正しいかではなく、何が関係各署の顔を立て社内稟議が通りそうか、皆の気持ちを忖度できるかどうかが、出世できるかどうかの分かれ道になる。

ところが、そんなスキルをいくら身に付けても、それはほかの会社、転職市場では、まったく価値がない。

高い給与を取れる人になるための第一歩は、付加価値社員への自己変革

ここまで読めば、明らかだろう。私たちの給与を上げるためには、これまでの仕事のやり方を変え、一人ひとりが付加価値を生み出す仕事をできるように自己を変革していかなければならない。○○会社の中だけで通用するスキルではなく、市場で評価される普遍的なスキルを身に付ける必要がある。

つまり、何かの仕事のプロになるしかない。市場で評価される普遍的なスキルを身に付けるしかない。そうすれば、ヘッドハンターからも声がかかる。そうなるためには、付加価値を生んでいるかをつねに意識して仕事を進めていくように気持ちを変えなければダメだ。これこそ、本当の「働き方改革」である。

会社がこうした変革を行うことはないから、自分で変えるしかない。まずは、自分で自分のいるポジションのジョブ・ディスクリプションを作るところから始める。ジョブ・ディスクリプションとは、そのポジションの仕事をやるために、どんなスキル・経験が必要かを明らかにしたものだ。

あるジョブ、あるポジションにそのスキルを持ったプロを採用する欧米の企業では、当たり前のツールである。これが出来上がったら、自分に足りないところを学習して補おう。

そして、会社全体の戦略目標を(多くの会社では明確なものはないから、自分で設定するしかない)自分のいる部門に落とし込み、それをさらにブレークダウンして、自分のOBJECTIVEを明確に設定しよう。

今までの会社のボンヤリしたManagement by Objective(MBO)目標ではなく、本当のMBO目標を自分で設定してみよう。そして、それを上司に見せて合意を取り、その実現に向けて、プロとしての意識を高く持って取り組む。もちろん、結果を出さなければダメだ。

こうして、仕事の取組み姿勢を変え、結果を出し始めれば、上司もそれを認めざるをえなくなる。取引先や外部の人からも「あの人は仕事のプロだ。高い目的意識を持っている」と認められるようになる。これにより、自分の市場価値も高まっていく。

こうなればしめたもの。上司に対して、自分の給与を上げてくれと自信を持って言えるようになる。上司も、結果を出してくれる部下がいなくなると困るから、真剣に給与引き上げの要求に対応するはずだ。しかし、それでも上司が聞き入れず、「同期の中でお前の評価は高い。でも、給与はウチの給与体系にしばられているから上げられない」と言うなら、そのときは転職を考えるしかない。

■社内で認められないなら転職も選択肢

自分に市場価値があるのだから、上司の機嫌を損ねることを心配する必要もない。今の会社で自分の価値を正当に評価してくれないと思うなら、思い切って自分の価値を正当に評価してくれるところに羽ばたいていこう。                     

自分の仕事の価値を高めるために、自分の仕事のやり方を変える。そして、会社と社会に対する付加価値を生み出し、正々堂々と給与の引き上げを要求する。これが、日本人社員の給与を上げる道筋である。

植田 統:弁護士、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授

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