日本人の社畜ぶりが話題に!外国人が驚愕する「居眠り」「接待飲み」

働き方改革が叫ばれて久しいが、日本人の労働環境が劇的に改善される兆しは見えず、相変わらずブラック企業に関する報道も絶えない。日本人の「社畜化」が改善されないのは、一体なぜなのか。『残念な職場』(PHP新書)著者の河合薫氏に話を聞いてみた。(清談社 藤野ゆり)

外国人が驚愕する日本人の「居眠り」

「日本と海外の働き方の違いを象徴する例として、海外の人は、通勤電車で平然と居眠りする日本人を見て驚愕すると言います。もちろん治安の差などもありますが、『公衆の面前で昼寝?日本ではそれは勤勉の証しである』というタイトルで、居眠りとサラリーマンの生態を紹介する記事がニューヨーク・タイムズに書かれたこともあります」

そう話すのは、『残念な職場』(PHP新書)の著者で、働き方に関する研究をしている河合薫氏だ。

河合氏によると、日本人の睡眠時間は、世界最短という調査結果が出ているという。米ミシガン大学の調査でわかった国別の平均睡眠時間の比較では、日本人の平均睡眠時間は7時間24分。欧米は軒並み8時間前後を記録しているのに対し、7時間半以下を記録したのは、日本とシンガポールだけだった。

さらにその内訳をひもとくと、最も眠っていないのは働き盛りの中年男性だったという。日本の中年男性は諸外国と比較して、圧倒的に睡眠不足であり、その睡眠不足を補うように「居眠り」をするのだ。

『日本人は眠らない、昼寝もしない、居眠りをするのだ!』というタイトルで書かれたケンブリッジ大学のステガー博士によるコラムでは、日本人の「inemuri」について以下のような文章がつづられている。(河合氏による一部要約)

「彼らには到底理解できない日常がある。それは居眠りだ。通勤電車の中で椅子に埋もれるように居眠りしたり、立ったまま居眠りしたり、簡単に公衆の面前で寝る。しかも驚くべきことに周囲もそれを受け入れている。彼らは睡眠時間を削って働いているので、だらしない居眠りが許される。

(中略)職場での居眠りは無気力と怠慢の証しではなく、疲れ果てるまで仕事をがんばった結果と評価され、実際の業績より疲れをおして会議に出席するほうが価値が高い。日本人の精神はオリンピックに通じている。つまり『参加することに意義がある』のだ」

さらに河合氏によると、日本人は睡眠時間が短いだけでなく、「仕事以外の時間の使い方」が世界基準と異なるという。

「2009年のOECDの調査によると、日本人は家族で過ごす時間は欧米の半分以下という独特のライフスタイルを送っていることがわかりました。その一方で日本人は、コース料理が一般的なフランスやイタリア並みに食事時間が長いことも判明しました」

家族の時間を奪う“マラソンドリンキング“

家族と過ごす時間が少ないのに食事時間が長い傾向にある理由の一つには、「仕事終わりの一杯」が関係しているのではないか、と河合氏は指摘する。前述のコラムのように、「参加することに意義がある」というサラリーマンの姿勢は、就業時間だけに限らない。仕事終わりに男同士で連れ立って飲み歩く文化も日本人特有のものだ。

「海外、特にヨーロッパでは仕事後に飲みにいくような文化はありません。既婚者であれば、退社後は真っ先に家族のもとへ帰っていくのが普通。米国では職場の飲み会があったとしても18時には終わります。『接待』と称し、夜中まで飲み歩くなんて考えられません」

河合氏によると、海外では飲みにいく場合、子どもをベビーシッターに預け、妻も同伴させるなど家族ぐるみでの付き合いが多いという。サラリーマンだけで連れ立っているようなことは、独身者でも珍しいのだ。

日本のサラリーマンの飲み方に関しては、CNNが以下のように論じている。『Salarymanは日本経済を支える役目を果たすために、会社を最優先させる生活を営んでいる。彼らは死ぬほど働いたあとには、顧客や同僚たちと長々と酒を飲む』。「長々と酒を飲む」の原文は『marathon drinking』と表現されている。

「このmarathon drinkingこそが、サラリーマンの食事時間をダラダラと延長させ、家族と過ごす時間を奪い、睡眠時間を削っているわけです」

社畜でいたがる日本人背景には家事軽視の社会通念

ただでさえ長い労働時間の上、仕事が終わった後は同僚や取引先とダラダラと飲み続け、結果的に家族との時間や睡眠時間が短くなる。まさに「社畜」という表現がピッタリだ。

「だったら仕事が終われば、さっさと帰ればいいじゃん」という声も聞こえてきそうだが、日本人が「社畜化」を余儀なくされている理由には、「社畜でいるほうがラク…という心理が隠されている場合もある」と河合氏は分析する。

「男女関係なく、生きていくためには労働力として売買される『市場労働』と、『ケア労働』のどちらの労働も不可欠です。しかし、北欧諸国と比較して日本では家事、育児、介護などの無償の労働である『ケア労働』が評価されにくく、そのことが家にいることのストレスにつながっている可能性があります」

「育休」がなかなか浸透しないことからもわかるように、軽視されがちな家事育児などのケア労働。日本と同様にケア労働が軽視されがちな社会であるアメリカでは、家庭より職場にいるほうがストレスを感じていない、という研究結果が判明している。

「米ペンシルベニア州立大学の研究チームが、客観的なストレス指標によって検証した結果、男女、既婚未婚、子どもの有無に関係なく、家庭より職場にいるときの方がストレスを感じたときに分泌されるコルチゾール値が低いことが判明しました。つまり、母親だけでなく父親も独身者も皆一様に、家にいるより仕事をしているほうがラクだと感じているのです。早く退社してもフラフラと外で時間をつぶしてすぐに帰宅しないフラリーマンが、いい例ですね」

この研究グループのリーダーである教授は、この結果について「有償である職場の仕事に対し、家庭の仕事は退屈でそれほど報いのあるものではない。それが家庭のストレス度を高めているのではないか」と論じている。

「家庭の仕事を退屈で報いがない…と表現してしまうことは、多くの主婦層に反感を持たれるでしょう。しかし、結局のところいまだに多くの男性(そして女性も)がケア労働をそのように評価している現実が、ケア労働のストレス性をより高めているのではないでしょうか。改めて家事や育児、介護に対する評価を見つめ直さないことには、社畜化の改善は見込めないと思います」

「社会を支えるのは市場労働」という価値観が根底にある限り、ケア労働が本当の意味で評価されることはない。日本のサラリーマンの社畜化は、ケア労働への低評価と表裏一体のようである。

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