日本人の笑いが「グローバル」でなく特殊な深い訳 初対面でも通じるジョークをなぜ言えないのか

日本の企業はなによりも「真面目」であることを大切にする。ところが、それとは対照的に、アップルやピクサー、グーグルのような企業は、なによりも「ユーモア」を大切にすることで、大きく成長している。
スタンフォード大学ビジネススクール教授のジェニファー・アーカー氏と、同校講師でエグゼクティブ・コーチのナオミ・バグドナス氏によれば、ユーモアにあふれる職場は心理的安全性をもたらし、信頼関係を築き、社員のやる気を高め、創造性を育むという。
今回、日本語版が9月に刊行された『ユーモアは最強の武器である』について、社会学者で『ユーモア力の時代──日常生活をもっと笑うために』の著者の瀬沼文彰氏に話を聞いた。前編に引き続いてお届けする。

ユーモアに関する4つの思い込み

『ユーモアは最強の武器である』には、ユーモアに関する4つの思い込みがまとめられています。これはまさに、日本人に当てはまることだと思いました。

1. ビジネスは真面目であるべきという思い込み
2. うけないという思い込み
3. 面白くなくちゃいけないという思い込み
4. ユーモアは生まれつきの才能という思い込み

とくに、「笑いは、お笑い芸人がするものであり、才能のない自分たちには無理だ」という思い込みは強いなと感じます。実は、そのお笑い芸人だって、このような思い込みに惑わされています。

しかし、本書に書かれているとおり、笑いは誰でもトレーニングをして身につけられるものなのです。

僕は、元よしもと芸人で、同期には売れっ子が何人もいます。養成所には数百人がいて、もちろん最初から才能ある人もいましたが、99%は、最初は何もできず、そこからちょっとずつ覚えて、笑いを操作できるようになっていきました。

養成所では、最初、1分ネタを大量に作るという課題がありました。先輩のネタを模倣するところから入ったり、自分オリジナルのネタを作ったり、とにかく量産します。

いま振り返ると、あれは、引き出しづくりだったのだとわかります。笑いのパターンを、自分の中にたくさん作っていくわけです。

引き出しがある程度できると、次は、若手のお笑いライブに出演します。ライブでは10~20組が次々と舞台に登場しますが、そこには司会者がいて、1分ネタで笑いがとれるようになった芸人は、その司会者を任されるようになります。

ここでは、「今のネタはどうだった?」というような、舞台上でのアドリブの笑いが必要になります。その場に適したかたちの笑いを、どう出していけるかが、芸人としての成長でもあるのです。

これができるようになると、次はテレビへとステップアップしていくわけですが、まさに、努力によって、少しずつ笑いの技術は積み重ねていけるということです。

日本人のユーモアのタイプとは?

本書では、ユーモアのタイプについて、4つに分類されています。

・スタンダップ(攻撃的・表現力豊か)
・スイートハート(親しみやすい・さりげない)
・マグネット(親しみやすい・表現力豊か)
・スナイパー(攻撃的・さりげない)

ここは非常によくできています。ただ、日本人の場合、もっと細分化されているかなとも思いました。

ダジャレばかり言っている人は、社内で「ダジャレキャラ」になりますし、「小言キャラ」の人もいたりします。ダジャレが多い人が、さりげないというわけではありませんし、小言が多いからといって、攻撃的でもないし、表現力が豊かとは言えない人もいます。

つまり、本書の分類には入りきらないキャラクターが、この4パターンの周辺にたくさんいるというのが日本の特徴だと思うのです。

そのうえで、僕は、自分のキャラとしてのユーモアからは、脱出していくことが大事だと思っています。

例えば、人には、職場では「毒舌キャラ」だとしても、プライベートではとても親切でいい奴だという面があったりします。でも、ほとんどの人は、一度「毒舌キャラ」になれば、職場ではその認識されたキャラのままで通していきがちです。

お笑い芸人を見ていても、日本の笑いは独特で、身内ネタが目立ちます。テレビ番組を通して、身内の空間を作って、キャラを見せて、それをベースにして笑いをとるというパターンが多いのです。

ただ、ビジネスにおいては、グローバル化する世界のなかで、初対面の人とも笑い合えるユーモアを活用していくという発想が必要でしょう。

初対面の人や、クライアントの人に対しては、そんなにキャラを見せて接することはないと思いますから、身内キャラありきのユーモアではなく、初対面でも通じるユーモアが欲しいところです。

やはり、キャラから脱したものを考えなければならないのです。

その点、本書で紹介されていたジョークは、初対面でも使えるものが多いなと感じました。アメリカの場合、初対面向けのジョークの引き出しが多いのです。ジョークらしいジョークで、「ここ、笑うところだよ」というメタコミュニケーションがしっかり含まれてもいます。

笑いの「グレーゾーン」を認識せよ

本書では、ユーモアには人を傷つけるグレーゾーンがあるという話が書かれていますが、ここは本当に難しいところです。お笑い芸人の笑いを見ていても、なんの攻撃もしないジョークはありません。

ただ、ビジネスの場面では、上司が部下をいじる、性別を扱う冗談を言うとなると、ハラスメントに当たる場合があります。この笑いを、ここで行動していいのか、1秒だけ考えてから発言する必要があるかもしれません。

その点、自分の失敗談などの自虐は、使いやすいところだと思いますし、活用していくことができればいいなと思いますね。

また、聞く側の人にも、ある程度は許すという態度も必要です。それを冗談として受け止めるメンタリティーがないと、冗談はますます言いにくくなります。

そうなると、より閉塞感が高まりますし、何の笑いもなく、ただ仕事だけで信頼感を作らなければならなくなります。プレッシャーのかかる環境になり、逆に生産性を落としてしまう場合もあるでしょう。

ユーモアを学び、もっと活用しよう

ユーモアを活用するという視点は、もっと日本に広まってほしいと思います。『ユーモアは最強の武器である』は、ビジネスの場におけるユーモアのメリットがまとめられていますから、これをもっと多くの人が知って、活用してくれたらいいですね。

僕は、笑いに関する研修を行うこともありますが、とくに男性には、「どういう理屈で笑いが生まれるのか」という理論を知りたがる人が多いと感じます。本書は、その理論や笑いのレトリックが網羅されていますし、メンタリティーとテクニックの両面がきちんと整理されてもいます。

現役のコメディアンや、バラエティー番組のプロデューサーの発言が下地になってもいますから、説得力があるのです。本書をお笑い芸人に読ませると、「自分たちが普段やっていることが書いてあるんだけど」と感じるだろうなとも思います。

僕は、ビジネスにおけるユーモアの必要性を、15年間ずっと主張してきたのですが、日本では、意識的に取り入れている会社は、なかなか出てきません。

まだユーモアを勉強している人が少ないのが現状だからこそ、先取りして学ぶことで、武器にすることもできるでしょう。

数々のイノベーションを起こしてきたグーグルなどの会社は、ユーモアを大事に取り入れています。やはり、ユーモアの力は偉大です。それを使わない手はありません。

(構成:泉美木蘭、前編はこちら)

瀬沼 文彰:社会学者

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