なぜ風邪・インフルエンザにかかるのか
ここで質問です。なぜ私たちは風邪・インフルエンザにかかるのでしょうか。
「気温の低下」や「空気の乾燥」が原因と思われがちで、確かに間違いではないのですが、もっと本質的な「黒幕」は別にいます。
それは「ある栄養素」の不足です。
ある栄養素とは何か、次のヒントから考えてみてください。
・紫外線を浴びる機会が少なくなったことによって不足するようになった
・その栄養素は、日本人の8~9割が足りない
おわかりの方もいらっしゃるでしょう。その栄養素とは「ビタミンD」です。
ビタミンDが不足すると免疫力が低下し、風邪・インフルエンザ、その他の感染症にかかりやすくなってしまうのです。
風邪と言えば「ビタミンC」を思いつく人も多いでしょう。
確かにビタミンCは免疫力を強化する働きがありますが、ビタミンDは感染症予防に関する働きを認識していない人が多く、実際に不足している場合が多いので、ずっと重要性が高いと考えられます。
かつてビタミンDは「骨の健康維持に役立つ」とされる程度で、どちらかというと地味な存在でした。ところが近年、ビタミンDは免疫力アップ、がんの発症や再発リスクを下げる、アルツハイマーの予防、花粉症・アレルギーの症状を改善するなど、私たちの体にとって非常に重要な働きをしていることがわかってきました。
世界中を震撼させた新型コロナウイルスの感染が拡大した際にも、大きな注目を集めました。ビタミンDが欠乏すると新型コロナウイルスの発症リスクや重症化リスクが増すという論文が世界中で多数発表されています。
ではビタミンDは感染症に対してどんな働きがあるのでしょう。
私たちの体にはウイルスや細菌が入ってきたときの防御作用が備わっています。そのひとつが粘膜上にある「抗菌ペプチド」という物質。これはウイルスや菌が入ってきたときにやっつける働きをしています。ビタミンDはこの抗菌ペプチドを作りだす働きがあるのです。
またビタミンDは免疫細胞を活性化する作用があります。免疫細胞が元気になれば体の中に入ってしまったウイルスや細菌をやっつけることができます。
日本人のほとんどが不足しているビタミンD
ところがこれほど大事な栄養素であるビタミンDが、日本人のほとんどに不足しているというショッキングな報告があります。
東京慈恵会医科大学が2023年に発表した調査(The Journal of Nutrition 誌 Volume 153, Issue 4, p1253)によれば日本人の98%がビタミンD不足に該当しているそうです。他のさまざまなデータでも日本人のビタミンD不足が明らかになっています。
ビタミンDは食事から取れるほか、日光を浴びることによって体内で生成されます。ですから紫外線が弱まる秋から冬にかけてはどうしても不足がちになる=風邪・インフルエンザにかかりやすくなってしまうのです。
一昔前に比べ、日本人は日光に当たる時間が少なくなっています。特に女性は「シミ・シワになる」として紫外線を避ける傾向にあり、ビタミンDが不足しがちです。
ビタミンDが足りているかどうかは血液検査でわかるので、「風邪・インフルエンザにかかりやすい」と感じる人は一度調べてみるといいでしょう。
ではビタミンDはどうやったら補給できるのでしょうか。
まず食品では鮭や日光で干したシイタケやキクラゲなどに多く含まれます。野菜や穀物にはほとんど含まれていないので、その意味ではちょっと取りづらい栄養素といえます。
意識して紫外線を浴びることも大事です。服の上からではなく、素肌に直接浴びることが必要です。ただ、夏はいいのですが、冬はやはり足りません。
こうしたことを総合的に考えるとビタミンDはサプリメントで補給するのが合理的です。食事で十分な量を補給するのはなかなか難しいし、日光浴は皮膚へのダメージと引き換えとなるからです。しかもビタミンDのサプリはそんなに高価なものではありません。
ビタミンDを補給する際、一緒に取ってほしい栄養素があります。鉄、マグネシウム、ビタミンB2、ビタミンB6、ナイアシンです。
その訳は、ビタミンDが体内で活性化され働くときに、これらの栄養素が必要だからです。逆に言えばこれらの栄養素が足りないとビタミンDが十分に働くことができません。
特に女性の場合は鉄が不足している場合が多いので注意していただきたいと思います。
ビタミンDと一緒に免疫を支える栄養素
また、ビタミンDとともに免疫をサポートしてくれる栄養素があります。ビタミンDを補給する際はこれらの栄養素も一緒に取ると、風邪・インフルエンザの予防により効果的です。
・亜鉛 免疫を支える白血球に多く含まれています。免疫を強化したり炎症を抑えたりするのに必要。牡蠣、ホタテ、納豆、豆腐、チーズに多く含まれます。
・ビタミンA 粘膜の健康や免疫細胞の活性化をサポート。レバー、にんじん、カボチャ、ほうれん草に多く含まれます(野菜には前駆体であるβカロテンの形で含まれます)。
・オメガ3系脂肪酸 オメガ3系脂肪酸から代謝されるレゾルビンやプロテクチンが炎症を抑える働きをしてくれます。青魚、亜麻仁油、えごま油に多く含まれます。ただしオメガ3系脂肪酸は酸化に弱いため、ビタミンCやビタミンEなどの抗酸化栄養素と一緒に取ることが重要です。
ビタミンDを中心にした栄養素を積極的に摂取することで免疫力を上げ、風邪・インフルエンザに打ち勝つ体を作っていきましょう。
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田村 忠司 ヘルシーパス代表取締役社長