日本人の平均年収は約20年変わらず、440万円前後。普通に若くして「年収1000万円」を狙っても実現は難しい。それはなぜか(写真:freeangle/PIXTA)
筆者は外資系金融機関で証券アナリストとして日本企業の分析を担当してきました。外国人投資家と会う機会も多いのですが、「日本企業の投資家担当者はコロコロ変わる。なぜそんなことをして、株価を下げるリスクを負うのか?」と言われることがよくあります。
日本企業をしっかりと調べ上げている外国人投資家ですから、「日本では人事異動がよくある」という実態は把握しています。とはいえ、「上場会社の時価総額に影響する投資家の窓口担当者までも2、3年で交代させる理由がわからない」というのです。
外国人投資家がわざわざ来日して取材に訪れた際、新任担当者が出てきたりする。せっかく前任者が投資家対応に慣れてきたのに、あっさり異動させる意味もわからない、というわけです。「これまでの教育コストが無駄になっている」と、会社の業績に結びつけて担当者の交代を捉える外国人投資家も少なくありません。
頻繁な異動で「社員のプロ化」を阻む日本企業
どうして日本企業はそんな「無駄な人事異動」をするのでしょうか。理由は簡単、人件費を安く抑えるためです。担当者が「プロレベル」になると、給与は高くなっていきます。その前に異動させて、コストを抑えるのです。
日本の企業では製造業文化に起因するゼネラリスト志向の人材育成が長く続いています。社員は頻繁な異動や年功的な給与を受け入れており、一定の時期まで同期とは横並びで処遇されます。
出所:経済産業省『IT人材に関する各国比較調査』(2016年)
2016年に経済産業省が行った『IT人材に関する各国比較調査』によると、日本ではIT人材の平均年収が国内全産業のそれに比べても、さほど高くありません。2倍以下の水準です。一方で、インドやインドネシア、中国では7倍から10倍になっています。
プロフェッショナルのエンジニアなど給与が高騰していることがわかります。アメリカでも2倍以上の水準で、IT人材の平均年収は1000万円以上。日本のIT人材の倍近くを稼いでいます。これは裏を返せば、日本ではIT人材の人件費を抑える仕組みが「成功している」と考えられます。
日本企業が人件費抑制に「成功している」となれば、働き手は年収が上がりにくいということになります。2018年に国税庁が行った『民間給与実態統計調査』によると、日本の平均給与は441万円。世界3位の経済大国とは思えない金額です。アメリカのように、20代や30代で年収1000万円を稼ぐのは至難といえます。
大企業で長く働いていても、異動を繰り返した揚げ句、何の専門性もない立派なゼネラリスト人材となり、1000万円はおろか、社外では通用しない残念な人材になってしまいます。
日本企業では「役割に見合った能力」で人材の配属を決めることは少なく、単なる「ジョブローテーション」によって人を動かしています。企業は人材に「このポジションについたら、必ず〇〇の結果を出す」といったことを明確に求めません。個人でなくチームで結果を達成させる仕組みになっており、個人は専門性が身に付かないのはもちろん、1人では何の結果も出せないのです。
外資系企業ではポジション採用が行われており、新卒であっても入社時から専門分野・役割・達成すべき目標などが決まっています。そこで5年働けば、その専門分野でのプロフェッショナルになるだけでなく、自分を「ブランド」として捉えるようにもなります。5年でプロフェッショナルになっているわけですから、1000万円の給与を目指すことに現実味が出てきますし、すでに達成していることもあります。
外資系で稼ぐ社員は「セルフプロデュース」を徹底
筆者が外資系金融機関に勤務していたとき、日本企業とのミーティングに自分1人で出席していました。ところが日本企業からは、ゾロゾロと複数名が来るのです。大人数でやって来て「会社の層の厚さ」を見せつける。
しかし、会議には権限と責任を持っている人が出席すればいいのです。日本企業を代表して誰か1人、こちらと話し合ってくれるほうが断然効率がいい。それぞれ個人のスキルを伸ばすことにもつながりますし、当然、商談がうまくいったあかつきには自らの給与に反映されることにもなります。
外資系企業で年収1000万円超えの社員は、キャリアのセルフプロデュースをつねに行っている人ばかりです。「法人営業に特化していることを自らの強みにしていく」「若輩者に見られると損するから、服装は地味にしている」「売り上げにつながらないと見極めたら、その顧客は切る。限られた時間で売り上げを上げる」といったことを日々、実践しています。
徹底したセルフプロデュースが可能なのも、仕事で求められることが明確なうえに、自分がそれをどう達成するかに対して裁量も与えられているからです。「メールには必ず上司をCCに入れていて、上司も逐一確認している」というような仕事のやり方は、1000万円超えの外資系社員には無縁。仕事に関わる人が多くなるほど、人件費などムダなコストが増えると考えるのです。
肩書や社名に対する考え方も、日本企業と外資系企業の社員では違います。筆者自身、その違いをソニーと外資系金融で勤務して気づいたのですが、日本企業の社員は肩書や社名をキャリアの重要指標と考えています。それに対して、外資系企業の社員はとてもドライに捉えています。重視しているのは社名より経験です。今いる会社での経験がどれだけキャリアと給与アップにつながるかで仕事をしています。
実際、社名にこだわったところで、その会社が10年後に存続しているか、わかりません。役職にこだわったところで、転職して同じ肩書で通用するかは別の話です。より現実的に、より客観的に自らの市場価値を測ろうとすれば、社名や役職や肩書ではなく、報酬ベースを物差しにするほうが論理的な思考といえるでしょう。
「石の上にも3年」の辛抱は、日本企業で役に立たない
日本企業にも結果を出している優秀な若手がいますが、30代のうちに年収1000万円を目指すなら、外資系企業への転職もおすすめします。
転職に否定的な人ほど「石の上にも3年だ」などど、辛抱を推奨する言葉をよく使うように思いますが、自分の実力を上げて給料を上げるためには、同じ会社でなく同じ職種で「石の上にも3年」を目指すべきです。実際、同じ職種を3年続けてもプロフェッショナルにはほど遠いと思いますが、日本企業にいる限りは3年で次の職場への異動になってしまいます。
外資系企業で働けばプロフェッショナルなキャリアを必ず築けるというわけではありません。結果を出せなければクビになります。一方で、クビになる人はすぐになるので、結果がわかるのも早く、短期に軌道修正が可能です。
30代のうちに本気で1000万円を目指すのであれば、リスクを恐れず、自らのキャリアのプロデューサーとして外資系企業での働き方というのも検討してみてはいかがでしょうか。