日本円もひっそりと「大暴落中」のナゼ

ロシアがウクライナを侵攻し始めてから、同国通貨単位である「ロシアルーブル」は対円相場で18%暴落した。各国による経済制裁や、SWIFT除外による為替リスクの増大が、ルーブル安につながっているという。

 しかし、ルーブルが対岸の火事になっていると認識するのは早計だ。このところ日本円も大幅に円安、つまり暴落しているのだ。1ドルを買うために103.24円支払えばよかったものが、今では、121円を支払わなければ1ドルを買うことができない。2021年以来、円の価値は15%も下落している。時間軸は異なれど、円相場はルーブル並みの暴落を経験しているといってよいだろう。

 その中でも今月は一段と日本円の売りが加速した。ドル円相場は月初の1ドル114.83円から、22日には一時1ドル121.4ドル程度へ一気に円安が進んだ。

 「日本は輸出産業に支えられているから、円安は正義」といった論調もかつてはみられた。しかし、日本の名目GDPに対する輸出額の割合はおよそ2割程度と、ドイツの4割や英国の3割と比べても低い。円安は大まかにいって2割の輸出産業に対してはプラスとなるが、残りの8割を占める輸入や内需という観点でみるとマイナス面も大きい。

 特に、食料自給率が4割弱の日本にとって、円安は小麦の輸入や、食料栽培のために使用される原油のような品目の価格をいっそう押し上げていく。ただでさえ値上げラッシュの22年だが、同時に円安によるダメージも商品価格に転嫁されていくおそれがある。

●低金利は円安にも影響

 このところ止まる気配のない円安は、日本の低金利が影響しているとみられる。日本円は、戦争といった地政学リスクの高まりや経済動向の不確実性が高まる局面を迎えると、「有事の安全通貨」として買われる傾向があったが、今回はその動きがみられない。

 ウクライナ危機において地政学リスクが高まっている足元で、日本円は非常に弱含みな展開となっている。この点について、一見ウクライナとロシアの紛争といえば遠い欧州の出来事にもみえるが、実際はロシアと日本は隣接しており、北方領土問題も抱えている点で「遠くの戦争は買い」という相場格言も通用しない状況ということもあるだろう。そもそも現代では、核ミサイルをはじめとして地球上どこにいても戦禍は届き得る。現代において「遠くの戦争」はもはや存在しないといってもよいかもしれない。

 しかし、最大の円安要因は、やはり日米金利差の拡大観測が高まっていることにあるだろう。3月3日のパウエルFRB議長によれば、米国の利上げペースがこれまでの0.25%刻みから、0.5%刻みも選択し得る可能性があるという。

その一方で、日本では量的緩和の縮小について全く見通しが立っていない状況だ。日銀の黒田総裁は22日の参議院予算委員会で出口戦略について時期尚早であると発言した。日本の政策金利は16年1月からマイナス金利政策が継続しており、今でも-0.10%で推移している。その一方で、米国では現在0.5%の政策金利を2.0%程度の水準まで引き上げる見通しだ。

 米国債券市場では10年物の長期債利回りが2.33%で推移している一方で、日本国債の10年物の長期債利回りは0.23%と低調だ。幅にして2.1%分の金利差が、円をドルに交換する需要の元になっていると考えられる。

 要は、「持っていても金利のつかない通貨は売られ、金利のある通貨が買われる」というキャリートレード的な動きが、日本円の対外的な価値が暴落している原因といえるだろう。

●相場の変動には要注意

 円安の主要な原因が内外金利差にあるとすれば、リーマンショック前夜となった07年から08年の円安相場がフラッシュバックする。07年の上旬に1ドル124円程度まで上昇したドル円相場は、翌年からの世界金融危機(リーマンショック)を経て、高値更新からわずか4年余りで76円前後までの急激な円高を経験した。

 09年6月に発表された日銀レビューによれば、このような値動きには金利差を利用したキャリートレードが金融不均衡を拡大させてしまったと分析している。金利の低い通貨を売り、金利の高い通貨を、先物やFXなどのレバレッジをかけた商品で積極運用した結果、ポジションの巻き戻しによって金利の高い通貨が過剰に処分され、金利の低い通貨が大きく買い戻されることになったということだ。

 このような過去の教訓を踏まえれば、今の状況もまさにドルの急落リスクと、円の急騰リスクがじわじわと広がっている段階である可能性に注意を払いたい。

 あまりに恐怖を煽(あお)ることは適切ではないが、為替相場だけでなく原油相場をみても世界金融危機前夜と22年の原油高の間に共通点が多いことも頭の隅にいれておきたい。08年当時の原油高要因といえば、イラン情勢の緊張が高まるという地政学リスクと、米国におけるインフレ懸念の高まり、そして日欧米間の金利格差拡大観測という3つの要因が重なったことが背景にある。これにより、当時のニューヨーク原油先物相場は一時史上最高値の147.27ドルまで上昇していた。

 一方で、足元の原油価格は115.45ドルとリーマン前の史上最高値に迫る勢いで上昇している。底値からの上昇速度は08年までの原油高を遥かに上回るスピードであり、そこからの巻き戻しと経済停滞の危険性には十分注意しておきたい。

(古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士)

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