日本最大級のハプニングバーが摘発 業態そのものが「もう限界」の声

東京・渋谷にある巨大ハプニングバーが摘発された。普段、ハプニングには慣れていたはずの愛好家たちも予期できなかった店内は、どのような状況だったのか──。

「動かないで!」

 バーカウンターやソファ、ダーツが備わる地下1階。ワイシャツにパンツ姿の男女数十人がローション入りの水鉄砲をかけ合って遊んでいる。その時、2階の「プレイルーム」では盛り上がった男女1組がいた。マジックミラー越しにその行為を見つめる観客たち。嬌声が飛び交う混沌とした空間に、突如大声が響いた。

「警察です! 動かないで!」

 なだれ込んできたのは、警視庁保安課の私服捜査員だった──。ゴールデンウィークも終盤となった5月7日の深夜。東京・渋谷のハプニングバー「眠れる森の美女」が摘発された。行為に及んでいた客の男女が公然わいせつの現行犯で、経営者の男(40)と従業員9人が公然わいせつ幇助の疑いで逮捕された(客の男女はすでに釈放)。

 当日は、ローションを水鉄砲に入れて参加者同士が打ち合うイベントが開催されており、男女約70人が来店していたという。ハプニングバーとは、会員制バーを装いつつ、実態は様々な嗜好を持った客が集い、ハプニングと称してわいせつな行為をする店のこと。摘発された「眠れる森の美女」はホームページで「日本最大級」を謳う大規模店で、警視庁によると2020年10月以降の1年半で5億円以上を売り上げたとみられる。常連客の30代男性が語る。

「オープンは15年ほど前ですが、幾度か店長が変わっています。客層は20~30代がメイン。建物は地上2階地下1階で、地下はクラブのような雰囲気です。1階は受付とロッカールーム、2階にプレイルームがあります。

 セキュリティがしっかりしていて、初回は身元を確認できる身分証を提示し、2回目以降は会員証を提示しないと入店できない。店内は撮影厳禁で、スマホはロッカーに預けないといけません。避妊具は店員さんに言えばもらえます」

 男性は入会金7000円で入店料金1万7000円、女性は入会金2000円で入店料金はゼロ。カップルの場合、入店料金は2人で8000円となっている。

「プレイルームはマジックミラーになっていて、内側から外は見えないけど、外からは見える仕組み。地下のバーでイイ感じになった客同士が、その場でハプることもあれば、2階のプレイルームに行ってするケースもあった」(同前)

 そのような場所で、本当のハプニングが起きたのが冒頭のシーンだった。

この形態の店はもう限界なんです

2010年代からは毎年のように摘発劇が続き、2017年10月には上野のハプニングバー「私のハーモニカ」が摘発。2019年10月には東京・多摩市の老舗ハプニングバー「リアリティー」が摘発された。

「東京五輪前の浄化作戦の一環だったと言われています」(風俗誌ライター)

 だが、東京五輪も終わり、重大な国際イベントが控えているわけでもないこのタイミングで、なぜ「眠れる森の美女」は摘発されたのか。ハプニングバーに精通する男性は分析する。

「実はコロナ禍でハプニングバーの利用客が増えているんです。人との接触が激減したこともあって、マッチングアプリやパパ活などに走る人が増えるのと同じ流れで、出会いを求めてハプニングバーに参入する若い人たちが急増している。加えて最近はYouTuberが店の潜入動画をアップしたりしていて、目立っていた部分も否めない。そうした実態を警察が掴み、今回の摘発に繋がったのではないか」

 かつて「眠れる森の美女」の常連だったという女縄師の狩野千秋氏は、今回の摘発にため息を漏らす。

「オープン当初からお客さんを縛るイベントによく参加していました。ヨガインストラクターの軟体女性をI字バランスのポーズのまま縛ったり、アートな時間を満喫した。

 今はもうSM女王を引退し、普通の主婦なので、近年の店の様子は知りません。ただ、『眠れる森』は私を育ててくれた大切な場所。いつまでも続くことを願っていました。愛好家が増えるのは良いことですが、SNSとかで目立った結果、こういった事態になったのであれば、やはり限られた人のための場所であったほうが良かったのか……。複雑ですね」

 一方、2004年に東京・六本木のハプニングバー「メンバーズクラブロック」が全国で初めて摘発された際、公然わいせつで逮捕された男優のチョコボール向井は冷静だ。

「僕は公然わいせつで懲役5月、執行猶予3年の有罪判決を受けました。前科がつくとその後の生活は大変です。住居も退去せざるを得なかったし、共演女優さんには今でも申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 今回の摘発で、店や居合わせた客の心中は察します。でも、やはり違法なものはダメ。普通のバーで届けを出して、店内で性行為をさせてるわけでしょう。もちろん風俗店として届けを出しても許可が下りるとは思えない。この形態の店はもう限界なんです」

 摘発された「眠れる森の美女」のオーナーとスタッフは公然わいせつの「幇助」で逮捕されており、その罪は本番行為をした男女客の公然わいせつより軽いとされる。グラディアトル法律事務所の若林翔弁護士が解説する。

「経営者は証拠状況や前科などの事情にもよりますが、罰金刑や執行猶予つきの懲罰刑となる可能性があります。従業員や男女客は経営者に比して悪質性が低く、不起訴の可能性もあるでしょう」

 大捕り物の割に罰則は軽い印象だが、大々的に報じられ、逮捕によって失うものは計り知れない。居合わせた客にもトラウマを植え付ける出来事となっただろう。ハプニングの代償は大きかった。

※週刊ポスト2022年5月27日号

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