地震の揺れがほとんどない「スロー地震」について、東北大や京都大防災研究所などの研究グループが日本海溝全域の分布図を初めて作成し、東日本大震災によるプレート境界の破壊がスロー地震多発域で停止していたとの観測成果をまとめた。23日付の米科学誌サイエンス電子版に発表した。
スロー地震は海溝型巨大地震の発生域周辺で、長いもので数年かけてゆっくりと断層がすべる現象で、巨大地震との関係が注目されている。日本海溝での詳しい分布は、これまで分かっていなかった。
防災科学技術研究所(茨城県つくば市)が2016年に運用を始めた「日本海溝海底地震津波観測網」での2年間の観測などをまとめた。
それによると、三陸沖と福島~茨城沖の深さ10~20キロのプレート境界付近で、スロー地震の一種で小刻みな揺れが長く続く「低周波微動」などが活発に起きていたことが分かった。
このスロー地震多発域は震災の震源域を南北から挟み込むように広がり、1930年以降でマグニチュード(M)7、8級の地震は観測されていないという。
東北大の内田直希准教授と京大の西川友章特別研究員(ともに地震学)は「スロー地震多発域で巨大地震の高速な破壊が停止したことが初めて分かった貴重なデータだ。スロー地震でしかエネルギーを解放できないエリアと言えるのではないか」と推測する。
研究は防災科研や東大を含めた4者共同。今回の観測では、震災震源域の宮城~福島沖でスロー地震は少なかった。震災を巡り、直前にあったスロー地震の「ゆっくり滑り」が影響を与えた可能性が指摘されている。