電気自動車(EV)に代表される電動車両が、交通事故や渋滞を防ぐ安全な交通インフラ構築に向け動き出している。日産自動車は、人が運転操作をしなくても自走する「自動運転車」を2020年までに、「手頃な値段」(日産幹部)で発売する計画を打ち出した。試作車は、EV「リーフ」がベース。(フジサンケイビジネスアイ)
車の運転には、(1)認知(2)判断(3)操作-と3つのステップがある。人によるこの一連の動きをICT(情報通信技術)活用で知能化させた車に担わせていく。危険をセンサーが認知するスピードなどで、「3ステップとも、人の100倍の能力を車は潜在的には有している。車が人の能力を補完する形」(松村基宏・日産自動車執行役員)と話す。
筆者は最近、カリフォルニア州に設けられたテストコースで試作車に同乗した。まずは、スーパーの駐車場に見立てたエリア。降車しスマートフォン(高機能携帯電話)を操作すると、車は空いた駐車スペースを求めて無人で動き出す。一方通行や一時停止などの標識を認知し、従い、対向車に出くわすと安全に待機。やがて空きスペースを見つけ、バックから入庫して電源はオフに。
買い物を終え、スマホで呼び出すと起動。呼び出した地点まで自動運転で迎えに来る。次に、比較的運転が簡易とされる高速道での自動運転。道路状況に応じて車線変更などを行い、車両間隔なども維持して走る。工事による車線規制にも対応していく。
圧巻だったのは急な飛び出しへの対応。コースでは人型の看板が側面から飛び出すが、車はこれを感知して急ハンドルが切られ看板への衝突を回避した。人では不可能なくらいの反応と動作速度の速さである。
EVが試作車に使われているのは、1つは制御特性から。「オン」「オフ」はもちろん、どんな条件においても車をコントロールしやすいのだ。応答性の早さもある。エンジン内部の温度による出力が変わるガソリン車では、微妙な制御が難しくなる。
車載するレーザースキャナーやカメラ、人工知能の役割を果たすコンピューターなどへの電力供給が容易になるメリットも、EVにはある。
将来的には道路の交通管制システムや自動運転車両間で情報を管理し合い、究極の安全を求めた交通インフラを構築させていく。車社会とICTとが融合していくが、精密な制御が可能なEVや燃料電池車(FCV)、レンジエクステンダーといったモーター駆動の電動車両が、自動運転の基本となるはず。
リーフはこれまで世界で7万8000台が販売され、とりわけ環境規制が厳しい米国西海岸で「販売を急速に伸ばしている」(日産)。日本をはじめ先進国の多くは高齢化が進んでいく。それだけに、誰もが安全を確保できる交通インフラは必要とされていく。
不足する強電系技術者の育成、自動運転時代を見据えた各国の法整備など、課題は多い。が、人間社会そのものを変えていく未来技術がまた一つ、日本から発信されたのは確かだ。(経済ジャーナリスト 永井隆)