日本経済をダメにする「ゾンビ企業」が、ここにきて急増してきた理由

近年、“ゾンビ企業”が増加の一途を辿っている。

7月の東京データバンクの発表によると、2020年度のデータでゾンビ企業の数は16.5万社、割合にして推計11.3%と算出されたという。つまり、10社に1社以上がゾンビ企業になっているという驚きの結果が出たのである。

ゾンビ企業とは、実質的には経営破綻に陥っているにもかかわらず、国や金融機関からの支援により、生ける屍状態で経営を続けている企業のことだ。

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なおこの調査では国際決済銀行の定義に則って、借入金などの利息の支払い能力がその企業にあるかどうかを測るための指標「インタレスト・カバレッジ・レシオ」が3年以上にわたり1未満、かつ設立10年以上の企業をゾンビ企業としている。

最近では、「ゾンビ企業の増加が日本経済をダメにした」という声を聞くことも少なくはない。そこで今回は経済評論家の鈴木貴博氏に、ゾンビ企業の存在が日本経済にどのような影響を及ぼすのか、解説・分析してもらった(以下、「」は鈴木氏のコメント)。

大規模な経済危機のたびに増えてきた?

そもそもゾンビ企業がここまで増えた要因について、鈴木氏は次のように語る。

「大規模な経済危機が起きると、ゾンビ企業は増えやすいものです。たとえば、90年代初頭のバブル崩壊、2008年のリーマンショックのときは、経営破綻に陥りそうになった企業が、行政の公的な制度を利用して資金を手に入れゾンビ企業化するという話はよく聞きました。

そして今回のコロナ禍でも同様に、国からの持続化給付金に頼って生きながらえる企業が増加しました。ただし中小零細企業の割合が高くなったのは特徴的な点と言えますね」

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日本経済という大きな視点からみると、ゾンビ企業が1割以上にのぼるという現況は、どう評価すべきなのか。

「ゾンビ企業が日本の健全な経済成長を阻害しているという認識は、産業界全体で根強い。マクロ経済学的に言えば、業績を上げられなかった企業が淘汰され、より競争力のある企業が台頭するのが経済発展の根本原理です。

ゾンビ企業の存続のために使用した数兆円を新規ベンチャー企業に投資しておけば、大きな利益を生んでいたかもしれないので、ゾンビ企業の発生が常態化しているのは本当に大問題なんです」

またゾンビ企業の存在はサービス、商品の価格相場を破壊しかねないとも言われる。

「ゾンビ企業は利益を上げることを第一目標にせず、従業員への給与支払い、コストの維持に努める傾向があります。したがって、会社のコスト維持のために商品、サービスの利益率を下げて固定客の獲得を狙おうとする傾向にあるため、ダンピングが非常に起こりやすい。

あるゾンビ企業が安く商品を販売しているために、健全な同業者が割を食う羽目になってしまうことはよくある話なんです」

ゾンビ企業増加を招いた銀行の仕組み

ゾンビ企業が蔓延しているのはたしかに問題だが、その責任の一端は金融機関にあると鈴木氏は分析する。

「銀行員は4年ほどで支店を異動する慣例となっていますが、その期間内に融資を担当した企業が倒産してしまうと担当者本人の責任になり、出世の道が閉ざされてしまうことも少なくありません。

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したがって、銀行員は自分の担当する企業をなるべく潰さないように立ち回ることになります。倒産が秒読みの企業でも、上司を説得できるよう資料を書き換えたり、データの見え方を変更して経営が改善しているように見せたりなどして、上手くその企業を存続させられるよう行動するんです。

また地元の有力企業や大手企業などが潰れてしまうと銀行全体として困るので、追加で融資を行うことも珍しくないでしょう。一方、零細中小企業などは潰れても特に困らないので、銀行は割とドライに融資を打ち切る傾向にありますね」

逆に今回のコロナ禍で中小零細企業の中にゾンビ企業が増えているのは、持続化給付金などが原因となった今までにないケースと言えそうだ。ちなみに、バンカーたちのそうした保身的な立ち回りは、日本特有の現象らしい。

「逆に海外の銀行だと、業績が大きく落ち込んでいる企業は融資を切ってどんどん潰す傾向にあり、そういう判断をした銀行員に賞与を与える仕組みもあります。あちらでは、担当企業の倒産は銀行員の責任にはならないのも大きな違いのひとつです。こうした銀行の人事評価の遅れがゾンビ企業増加の隠れた原因だと、個人的には考えています」

同時に鈴木氏は国の政策もゾンビ企業創出の要因と指摘し、政治的な理由が大きいという。

「今回のコロナ禍のように、企業の倒産が急増するほどの経済危機に直面すると、次の選挙に影響が出てきます。政治家が地元企業を見捨ててしまうと、地元の有権者から恨みを買い票田がなくなってしまうからです。

ただし、支援金、給付金制度があれば話は別です。企業は支援制度を使って生き延びるので、制度さえきちんと整備しておけば、支持率が揺らぐことは基本的にありません」

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ゾンビ企業に陥りやすい企業の特徴とは

以上の通り政治と金融機関によって生み出されるゾンビ企業だが、どのような業種、規模の企業がゾンビ化しやすいのかも気になるところだろう。

「今後需要が縮小していく地方の名門企業が多いでしょう。業種で言うと、大手の旅館、ホテル、ローカル展開する食品メーカー、百貨店などが挙げられます。過疎化が進む地域だと、人口が減り観光客も来なくなってどんどん業績が悪化する……ということも珍しくはありませんからね。

このようなシュリンク業界はインバウンド需要も見込めず、基本的に業績アップの兆しはないため、ゾンビ企業になりやすいでしょう」

そういった特徴に該当する企業が業績悪化する最たる理由は、おおむね共通しているという。

「基本的にゾンビ企業化するところは、大きな設備を抱えていたり、在庫を抱えていたりします。一度工場やホテルを建ててしまうと維持コストがかかってしまうので、次第に経営が苦しくなりゾンビ化していきます。現在では廃墟になっている元ホテルなどはゾンビ企業の成れの果て……かもしれません」

またゾンビ企業になりかけている企業にも、共通する特徴がある。

「財務指標を見るとわかりやすいですね。たとえば、ゾンビ企業は絶対に投資収益率が下がっているので、投資した金額に対して利益がどれだけ上がっているのかを見れば、ゾンビ化の度合いがわかります。また在庫がやたら多くなっていて、不良資産が膨らんでいれば、ほぼゾンビ企業になっていると判断できるでしょう」

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ゾンビ企業を野放しにしてきたツケ

増え続けるゾンビ企業だが、いずれ一掃される日が来ると鈴木氏は断言する。

「現在給付されている『新型コロナウイルス感染症特別貸付』は無利子となっていますが、近い将来有利子になるタイミングがやって来るでしょう。そうなると無利子融資で何とか食いつないでいたゾンビ企業たちが一気に倒産の危機に陥ります。しかし、ハードランディング(急激な景気後退)を招く恐れもあるので、政府は慎重に判断せざるを得ません。

ただこのままゾンビ企業が野放しだと、日本経済はますます停滞してしまうという懸念は大きいですね」

言うまでもなく、ゾンビ企業の増加は日本全体にとってマイナスな影響をもたらす。解決の糸口はないのだろうか。

「やはり“ゾンビ企業はよくない”という共通理解を広げることが重要でしょう。先ほど申し上げた通り、昔から産業界ではゾンビ企業の存在が長らく問題とされてきましたが、現在よりも日本経済全体が安定していましたので、積極的に淘汰しようという動きは少なかったです。

ですが現代は、『失われた30年』と呼ばれるほど経済不況であり、かつ『持続可能な経済』というのがキーワードとなっているので、ゾンビ企業のような『実質的に持続が不可能な』存在は居続けても損になるだけと多くの人が気づけるはず。

そのような共通理解をベースとして、保身のために利益につながらない融資を継続する銀行を罰したり、国や自治体の給付の受け取り先を本当に必要な企業だけに絞ったりすることで、ゾンビ企業増加の原因を少しでも減らすことが重要だと思います」

――ゾンビ企業をこのまま野放しにしたり、ましてや増加する状況がさらに続いたりすれば、日本経済が手痛いしっぺ返しを受けるのは自明の理だろう。鈴木氏の言うとおり、我々一人ひとりがゾンビ企業の増加を問題視し、国や行政、銀行に対して声をあげることが、解決に向けた最初の一歩になるのではないだろうか。

(取材・文=文月/A4studio)

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