漢字→カタカナへの書き換えで多くの血税がムダに投入された
韓国の政府や与党は「日帝残滓の清算」を叫び、ソウル市は日本語表記をカタカナに変えているが、カタカナの羅列は現代の日本人には読みづらく、誤った表記も多い。だから韓国に居住する日本人はカタカナを読まず、韓国語や中国語を参照している。
国際都市を標榜するソウル市は、駅周辺図などさまざまな案内板を韓国語(ハングル)、英語、中国語、日本語の4か国語で表記している。
スペースが限られるバスなどはハングルと英語、地下鉄は4か国語表記が原則で、日本語は、以前は漢字で表記していたが、現在はカタカナに書き換えられている。
ソウル地下鉄2号線の新川駅と新村駅は、カタカナだといずれも「シンチョン」駅となる。
新川駅は1980年、新村駅は84年の開業で、ハングルと英語、漢字は表記が異なるため問題にならなかったが、日本語をカタカナに変えた後の2016年、新川駅を「蚕室セネ」駅に改称した。
セは新しい、ネは川を意味する韓国の固有語で、セネという地名は存在しない。
駅名を改称した表向きの事由は住所表示の変更だが、紛らわしいという提言が日本人や日本語話者から出されていた。
漢字からカタカナへの書き換えや駅名改称は、ソウル市内はもとより首都圏電鉄の全ての駅や車両の路線図を変えなければならないので、多くの血税が2度に亘って投入されたことになる。
漢字を読むことができない韓国人は、自国の歴史を知ることができない
ファッションの街として知られている東大門市場の最寄り駅は地下鉄「東大門歴史文化公園」駅だが、カタカナ表記は「トンデムンヨッサムンファゴンウォン」または「トンデムンニョクサムンファファゴンウォン」である。
日本人はカタカナを読まず、韓国語か中国語表記を参照する。
地下鉄3号線の薬水駅と玉水駅は、韓国語の発音はヤクスとオクスだが、カタカナ表記は、薬水はヤッス、玉水はオッスとなっている。韓国国立国語院が定めた外国語表記に従ったという。筆者がソウル市に提言し、ソウル交通公社は一部の駅のみ修正した。
ソウル市は駅名標や各種案内板など韓国語を大きく表示し、次に英語、そして中国語の繁体字か簡体字と日本語を小さく並べて表記するが、日本人の目には戦前・戦中の表記に映る。
漢字は5世紀までに中国や百済から日本に伝来したと考えられ、平安時代までにひらがなとカタカナが誕生した。
鎌倉時代から江戸時代まで、武家政権は漢字・ひらがな混じり文を事実上の公用語として使い、カタカナは漢文の注釈や読みなど、漢文の誤読を防ぐ符号として使われた。
明治政府は漢字・カタカナ混じり文を基本とし、韓国が日帝と呼ぶ戦前・戦中時代の公文書等は旧字体漢字とカタカナで表記され、戦後、文部省(当時)は、新字体の当用漢字を作って、当用漢字表にない文字はひらがなの使用を原則とした。
ソウル市が採用した中国の繁体字とカタカナの組み合わせは、日本が朝鮮を統治した戦前・戦中時代にのみ使用された日本語表記と同一で“日帝時代”を彷彿とさせる。
現代の日本人は鎌倉時代から江戸時代に書かれた文献は原文を読んで理解できるので、正しい歴史を知ることができる。
一方、朝鮮王朝時代の文献は漢字で書かれており、漢字を読むことができない韓国人は、自国の歴史を知ることができない。
日本語漢字の韓国語読みが並んでいる
明治時代、米国や西欧との交流がはじまった日本は、欧米からもたらされた文化を表す新しい日本語を次々と生み出して、韓国や中国にも輸出した。
たとえば、中華人民共和国の「人民」と「共和国」は英語のピープル(People)とリパブリック(Republic)の訳語として日本人が作った和製漢字語で、「朝鮮民主主義人民共和国」や金正恩の「朝鮮労働党」も「朝鮮」以外は和製漢字語である。
英語のアドバタイジングやプロパガンダを意味する日本語や中国語はなく、福澤諭吉は、広く伝えるアドバタイジングを「広告」、知っている人に深く浸透させるプロパガンダは「宣伝」という訳語を作り、韓国や中国にも伝わった。
韓国では宣伝はほとんど目にしないが、「広告」は広く使われている。
鉄道用語は日本語のオンパレードだ。韓国の鉄道は、渋沢栄一が仁川と漢城(現・ソウル)を結ぶ路線を敷いたのが最初で、汽車、改札、入口、出口、乗換、手荷物、受取、取扱、取消、割引、特急、急行等々、日本語漢字の韓国語読みが並んでいる。
また日常的に使われる個人、義務、鉛筆、電話、飛行機、新聞や哲学、環境、化学、科学、芸術、写真なども日本製漢字語の韓国語読みで、代替する韓国語はない。
靖国神社を「ヤスクニ紳士」という偉人の名だと考える若者も
韓国語には漢字語と固有語があるが、7割近くが漢字語で、さらに韓国の漢字語のおよそ8割が日本製漢字語だといわれている。
つまり、韓国語のおよそ半分が日本語に由来する計算になる。
韓国政府やソウル市は、日本が持ち込んだ漢字語をなくすというが、そんなことは本当に可能なのだろうか。
日本語漢字の排斥は、不便さと同音異義語の乱発を引き起こしている。
韓国の政府や自治体は日本製漢字語を韓国の固有語に置き換えて、搭乗口を「タヌンゴッ(乗るところ)」、出口を「ナガヌンゴッ(出るところ)」など、国際都市を標榜しながら辞書にはない表現に変え、K-POPにハマって韓国を訪れる韓国語学習者の旅行を妨げている。
また同音意義語がとても多く、韓国語では会は「フェ」、長、葬、場はすべて「ジャング」なので、「会長が会葬の会場に行く」は、「フェジャングがフェジャングのフェジャングに行く」となる。
神社と紳士はいずれも「シンサ」と読み、若い人のなかには靖国神社を「ヤスクニ紳士」という偉人の名だと考える人もいるという。
祀られている人のなかには偉人がいるので間違いではないが。
「民主」は明治時代の和製漢語、「大統領」もプレジデントの訳語
2019年12月、慶尚南道議会は「勤労(クムノ)」を「労働(ノドン)」に変える条例案を可決した。
先にソウル市が、共に民主党が与党となった2017年から「勤労」は「勤労挺身隊」など日本統治に由来するとして「労働(ノドン)」を使いはじめ、19年3月には53の条例を改正する条例一括改正案を公布して「勤労」を「労働」に書き換えた。
また、首長が与党・共に民主党に属する京畿道、全羅北道、釜山、光州なども同調したが、そもそも「働」は日本製の漢字である。
「勤労」は朝鮮王朝の記録にも見られる表現らしく、与党には朝鮮王朝時代の史書を原文で読むことができる議員がいなかったのだろう。
日帝残滓の排除を進める与党・共に民主党と文在寅大統領だが、「民主」は明治時代の和製漢語で、「大統領」も江戸時代にプレジデントの訳語として考案され、明治になって定着した。中国語は「総統」または「大総統」である。
与党は党名を、文在寅は肩書きを変えなければならないが、「大統領」は憲法に定められており、憲法を改正するならば、多くの法律を変えなければいけないことになる。
なお、韓国語の「憲法」と「法律」も日本が統治時代に持ち込んだ。
歴史を否定する政府と国民は未来どころか、現在も見えないようだ。
佐々木和義
広告プランナー兼ライター。商業写真・映像制作会社を経て広告会社に転職し、プランナー兼コピーライターとなる。韓国に進出する食品会社の立上げを請け負い、2009年に渡韓。日本企業のアイデンティティや日本文化を正しく伝える必要性を感じ、2012年、日系専門広告制作会社を設立し、現在に至る。日系企業の韓国ビジネスをサポートする傍ら日本人の視点でソウル市に改善提案を行っている。韓国ソウル市在住。
週刊新潮WEB取材班編集