日本車は今後みんなEVになるの? ガソリン車やFCVではダメなの!? 大事なのは2極論ではなく「競争原理」だ

2050年のカーボンニュートラル実現に向け、急激に進む世界的なEV化の流れが進んでいます。これを受け日本では「EV推進派」と「慎重派・懐疑派」の間で真っ二つの論争が勃発。しかし自動車評論家の国沢光宏氏は「どちらも視野が狭い」と一刀両断します。いったいどういうことでしょうか。

■「EVしか勝たん!」の猛烈推進派と「欧米の陰謀だ」と叫ぶEV否定派…どっちも「視野が狭すぎる!」

 ここにきて、EVに代表される環境にやさしい自動車についてさまざまな論調が出てきた。
 
「日本はEVシフトしないと死ぬ」という推進派もいれば「EV戦略は欧米の日本車潰し」という陰謀論を唱え、安易なEV作りに赤信号を出す人達もいる。果たしてどうなのか。
 
 BEV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、ディーゼル車、純ガソリン車をすべて所有し、長所・短所を日々考えている立場から考察してみたい。

 まず極端な論調の人達の主張をじっくり考察すると、皆さん長くて5年、短い人だと現在で評価している。

 考えて頂きたい。エンジン搭載車の販売が出来なくなるまで欧州と日本で10年+α。アメリカや新興国はプラス10年。さらにカーボンニュートラルのゴールは2050年であり、あと27年もある。

 10年前に現在の技術レベルをイメージすることが難しかったように、2035年の予測は困難。

 参考までに10年+α前といえば、リチウムイオン電池搭載の量産電気自動車など存在せず。太陽光パネルの生産量も日本が世界No1だった。

 欧州市場を見ると、ディーゼル車が悪の代表になるなんて誰も考えないほどシェアを増やしていた時期。

 27年前の1995年といえば、インターネットさえ黎明期です。スマートフォンが世界中に普及するなんてことを予想出来た人は皆無かと。

 といった観点でEV肯定派やEV否定派の文章を読むと、そこにサイエンスなどまったく無く、今日の不満をあげつらうのみ。

 EV否定派の典型的な「EVダメ!」の根拠を見てみよう。

1.電池を作るのに二酸化炭素を出す

2.すべて電気自動車になったら電力不足になる

3.電池を作るリチウムなどが足りない

4.モーターを作るレアメタルを一部の国に独占されている

5.集合住宅で充電出来ない

 なるほど、すべて現在から10年先くらいまでで考えたら「その通り!」。けれどカーボンニュートラルの原点は、エネルギー問題でもある。

 エネルギーがカーボンニュートラルになったら、電池を作るエネルギーも二酸化炭素を出さない。

 電力不足説は笑うしかない。明日からすべて電気自動車に切り替わるワケじゃありません。

 発電問題はこの先27年掛けて少しずつ、電気自動車の比率が増えていく間に対応すべきこと。

 日本でいえば、24時間稼働させるベース電源は、原発推進派にブレーキ掛けられている地熱発電になるだろうと予想する。

 となれば、夜間も余剰電力で電気自動車くらい簡単にカバーできる。

 リチウムやレアメタルも、素材技術が進歩する可能性大。テスラのモーターにはレアメタルが使われていない。日産 アリアのモーターもレアメタル使われておらず。

 集合住宅の充電インフラは、国が本気で音頭を取ったらすぐ出来る。

■EVもFCVもガソリン・ハイブリッド車も…現状では一長一短あることをまず認めるべき

 一方、EV推進派の論調も酷い。

 ビジネス誌の出版社が運営するWebサイト「プレジデントオンライン」で「今すぐEVシフトしなければ日本経済は死ぬ…ウクライナ侵攻で早まった『ガソリン車消滅の衝撃波』~世界に先行する水素燃料電池車は亡国の技術に等しい~」(2022年4月20日掲載)を読んでみた。

 その論調は「電気自動車こそ最高」であり、そのアンチテーゼとなる燃料電池車を完全否定している。補完的なエネルギーである水素まで受け付けないとは「狭い」です。

レクサス 新型BEV(電気自動車)「RZ」レクサス 新型BEV(電気自動車)「RZ」

 エンジン車については「ガソリン高い」と完全否定。

 燃料電池車も「水素ステーションが無くて不便」だという。また水素を作るのにエネルギーを必要とする、みたいなEV否定派と同じようなことを主張するから興味深い。

 やはりEV推進派も、視野が著しく狭いと思う。そもそも水素と電気自動車は補完関係にあるからだ。

 EV推進派に聞くと、電気は太陽光や風力など再生可能エネルギーで作るという。

 御存知の通り、太陽光は夜間や荒天だと電気を作れない。風力も、風が無かったり強すぎたりすれば稼働出来ない。

 揚水式水力なら発電量を調整出来るけれど、立地的に増やせず。

 どうしたらいいかといえば、使い切れないくらい電気を作り、余ったら電気分解で水素を作って貯めておくこと。水素という状態なら燃やせば火力発電に使えるし、燃料電池を稼働させられる。

 驚くことにプレジデントオンラインでは「水素は0気圧。使うにはエネルギーを使って圧縮しなければならない」と否定に畳みを掛ける。

 確かに大気中で電気分解したら、常圧の気体だ。けれど密閉空間で電気分解すると発生した水素は圧縮されます。

 ホンダはエネルギー使わず圧縮水素を作るステーションの試験運用もした。10年先はさまざまなアイデアが出てくることだろう。

※ ※ ※

 結論を出す気はないけれど、現状ではそれぞれに長所と弱点がある。否定から入るんじゃなく競争させることが大切だと思う。

 前述の通り、EV推進派はガソリン高騰を主張するけれど、ハイブリッドの普及により20年前からすればクルマの燃費は2倍になった。20年前の消費量の半分だ。

 ガソリンが200円になったとしても、20数年前の100円と同じ。まだまだ誰でも普通に使えるエネルギーです。

 とはいえ、理論上は電気自動車がもっとも効率良く低コストだ。

 太陽光の発電コストは1kWhあたり10円程度。この電力でトヨタの最新BEV「bZ4X」なら6km走れる。

 ベースになっている「RAV4 ハイブリッド」は6km走るのに60円程度のガソリンを使う。

 車両コストが同等になれば、電気自動車のほうが圧倒的にSDGsだと思う。自宅で太陽光発電出来るなら、エネルギーの自給自足も可能です。

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