2016年4月7日、「フォーブス」誌は日本長者番付を発表した。世界経済の減速が懸念され るも、国内ではインバウンド需要、金融政策などの効果から、トップ50の半数が資産を伸ばした。「フォーブスジャパン」副編集長/WEB編集長の谷本有香 が今年度発表の日本長者番付のトレンドを読み解く。
2015年はギリシャの金融支援をめぐる問題や、人民元の想定外の切り下げなどを受けた中国景気の鈍化懸念、また、原油価格の急落などが、世界経済への先行きに対する不透明感を高めた。
そ んな外部要因に揺れる中、株価騰落率で見てみると、昨年、日本株は量的金融緩和や景気回復、企業業績の拡大などを背景に堅調に推移、9.1%の上昇を見せ た。しかし、一転、中国発の世界同時株安で始まった2016年、この資本市場の急変は、このたび発表されたランキングにも少なからず影を落としている。
3/25 時点のデータを基に計算された「日本の長者番付トップ50」の純総資産額は、前年比で40億ドルほど減少した。ただ一方で、中国をはじめとする外国人のイ ンバウンド消費が日本の国内消費を支えたほか、M&A・海外進出の積極化などによって、およそ半分のメンバーは純資産を増やしている。番付の最低 額は7億5000万ドルで、去年の6億ドルから上昇している。
柳井正、2年連続で首位をキープ
株価下落の影響も大き く、前年度に比べ、資産48億ドルを失うも、連続で堂々たる首位に輝いたファーストリテイリングの柳井正。ファーストリテイリングといえば、2015年、 インバウンド消費好調の恩恵を最も受けた企業のひとつといえよう。ただ、長引く不況と少子高齢化で国内の市場の先細りが指摘される中、世界展開に力を入れ る構図は変わらず、現在、海外の店舗は800店を超え、今年も中国に100店のオープンを計画と強気の姿勢を示す。
2位は、ソフトバンクの孫正義。いまだ、2013年に買収した米携帯電話会社スプリントの再建に手間取るも、アリババ上場後に多額の資産を得て順位をキープした。
2014年、社長の座を創業家以外に明け渡したサントリーホールディングスの佐治信忠、同じく2015年創業者として経営の一線を退いたキーエンスの滝崎武光がそれぞれ3位と4位にランクイン。
楽 天の三木谷浩史は5位に。自動車の相乗りサービスを手掛けるリフトやピンタレストへの出資、米Buy.com、英Play.comの買収と、成長のための 積極M&Aを展開しているが、市場の評価は厳しい。この1年で株価は一直線の右肩下がりとなり、柳井氏と同じく48億ドルの資産が失われた。
いずれにしても、日本のトップ長者たちは海外に活路を見出し、大きな行動に打って出ていることは間違いない。その結実こそランキングに反映しているといってもいい。そして、今後も恐らくこの傾向は続いていくだろう。
–{注目の新顔と今年の傾向}–
注目の新顔と今年の傾向
一方、今年新たにランクインしたのは、コーセーの小林兄弟。一昨年10月より化粧品が免税対象になってから、訪日外国人による化粧品の購買額が大幅に伸び、今年の新顔としてランキングに名前を連ねた。
ま た、新規参入組には、生活者の価値観が変化する中、うまく消費者ニーズを捉えられたところの躍進が目立った。消費者の節約志向をとらえ、多様なニーズに応 えたコスモス薬品の宇野正晃。地域に根ざした地場商品を中心に、価値訴求型で顧客からの支持を得たスーパーマーケット、イズミの山西泰明である。
そ の他、クックパッドの佐野陽光、建設・住宅の飯田グループホールディングスの飯田和美も初めてランクインしたメンバーだ。クックパッドはいうまでもなく、 いま最も躍進目覚ましい企業のひとつだが、料理レシピのコミュニティウェブサイト事業の堅調さもさることながら、国内外での積極的なM&Aの実施 も評価され、上場来、クックパッドの株価は美しい右肩上がりの線を描いてきた。2015年に形成した高台を再び越えていくことができるのか、今後が注目さ れる。
ここ1-2年のランキングの傾向として、一時期ブームであった、いわゆるITなどの新進気鋭の若手起業家とは一線を画す、熟練し た経営者が顔を並べているということが挙げられる。彼らの才腕たる、経営の原理原則を知り、世界に向けてビジョンを掲げる力、そして不断の努力でやり遂げ る実行力が、いまこそ問われているのかもしれない。
下記URLから、日本長者番付の全てのランキングが閲覧可能。
http://forbesjapan.com/japanrich/