日欧EPA署名でこれから起きるコト

日本と欧州連合(EU)が経済連携協定(EPA)を結んだ。2018年7月17日の日欧定期首脳協議(東京)の後、安倍晋三首相とユンケル欧州委員長らが署名、19年3月末までの発効を目指す。発効すれば、幅広い貿易品目の関税が撤廃・削減され、人口6億人、世界の国内総生産(GDP)の28%、貿易総額の37%を占める巨大な自由貿易圏が誕生する。

2013年から5年越しの難交渉がようやく決着したわけだが、昨17年来、トランプ米政権の保護主義への「防波堤」という新たな意義が加わったことで、環太平洋経済連携協定(TPP)に比べて低かった注目度ががぜん、アップすることになり、主要紙の論調も歓迎一色になった。

双方のワイン関税を即時撤廃

工業製品や食品の輸入にかかる関税を互いに撤廃・削減するのは自由貿易協定(FTA)だが、EPAは貿易にとどまらず、投資の自由化や知的財産保護など経済活動に必要な共通ルールを幅広く定める協定で、日欧EPAの場合、全23章にもなる。

日欧EPAの主な中身は、関税撤廃率がEU側約99%、日本側約94%となり、TPP並みの高水準になる。欧州向けの乗用車輸出は現行10%の関税が8年目に撤廃され、自動車部品は貿易額の92.1%が即時撤廃される。

日本の消費者の関心が高い分野では、EU産チーズに初年度2万トンの低関税輸入枠を設け、16年目に3万1000トンへ拡大。枠内の税率は段階的に引き下げ16年目にゼロに。日本はパスタ、チョコレート菓子の関税を11年目に撤廃。EU産牛肉関税は16年目に9%へ、豚肉関税は1キロ482円を10年目に同50円へ引き下げる。

日本からのものは日本酒、緑茶、しょうゆ、牛肉や豚肉の関税は即時撤廃。また、双方のワイン関税を即時撤廃する。これらにより欧州産のチーズやワインなどの価格が下がると期待される。さらに、「夕張メロン」「神戸ビーフ」などの地理的表示も欧州で保護されるようになる。

トランプ政権への圧力

もちろん、農業を中心に懸念がある。例えばチーズは「EU主要輸出国との激しい競争にさらされることは必至」(北海道農業協同組合)で、輸入が増えれば国産チーズの生産が減り、国内の生乳価格が下がり、酪農家に打撃になる可能性がある。農林水産省の試算では、協定発効で国内の農業生産額が約600億~1100億円減り、特に影響が大きいのが牛乳・乳製品(約134億~203億円)▽豚肉(約118億~236億円)▽住宅用木材など(約186億~371億円)などとしている。一方、農業でも、例えば欧州でも富裕層に人気の高級牛肉などは輸出増が期待される。

それでも、政府は日欧EPAが発効すれば、日本のGDPを5兆円(約1%)押し上げ、29万人の新規雇用を生む効果があると試算しているように、期待の方が高いといえる。

新聞各紙の社説(産経は「主張」)の論調は「歓迎」で足並みがそろう。 今回の意義は、まず、「双方の企業や消費者に幅広く恩恵が及び、お互いの経済を底上げできる」(日経7月18日)、「双方の経済活動は一段と活発になり、成長基盤が強化されよう」(読売19日)という経済活動へのプラス面だ。

ただ、トランプ政権の保護主義の嵐が吹き荒れる中での協定だけに、「保護主義を排除する明確な意思表示」(毎日19日)であり、「(トランプ大統領に)多国間連携の実利を具体的に示し、その輪から外れる不利益を認識させられるか」(産経19日)が問われることになる。

トランプ政権への圧力ということでは、「波及効果」も期待される。朝日(19日)は、「自由貿易網を幾重にも張り巡らせることは、トランプ政権への対抗措置となるだけではない。新たな国際経済の秩序を形作ることにもつながる」と、TPP早期発効や交渉が進む東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉促進の必要性を指摘。さらに、日経は「米国は温暖化防止の国際枠組み『パリ協定』や、イランの核開発阻止に向けた包括合意からも離脱した。EPAを礎に日本とEUの関係をより強固にし、国際秩序の安定に貢献する必要がある」と、経済に限らず、全地球規模の課題での協力の重要性を訴えている。

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