タマゴが先か、ニワトリが先か――。
世界に先駆け本格的な量産の電気自動車(EV)「リーフ」を投入した日産自動車。「i-MiEV(アイミーブ)」を展開する三菱自動車など、次世代のエコカーとして普及を目指すEV陣営が、“生みの苦しみ”に直面している。普及に不可欠な充電インフラの整備が進まないのだ。
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■ 全国10万基の充電スタンド設置目指す
経済対策の名目で13兆円超の大盤振る舞いが決まった2012年度の補正予算。産業政策を所轄する経済産業省の目玉施策のひとつが、EVやプラグインハイブリッド自動車(PHV)のインフラとなる充電スタンドを整備する「次世代自動車充電インフラ整備促進事業」だ。充電スタンド設置の補助金として、実に1005億円の予算を計上、2014年3月までに全国に約10万基の充電スタンドを整備するとした。
10万基のうち、30分程度で80%までの充電ができる急速充電器を3万5700基、満充電に8時間程度かかるが家庭用電源を利用できる普通充電器を7万4000基整備することを目指している。補助の方法は大きく以下の4つのパターンだ。
●高速道路サービスエリアやコンビニなど公共性の高い場所で利用対象者を限定せずに整備するケース。充電器本体と設置工事費の2分の1を補助。整備目標は急速充電器3万2000基、普通充電器3万3000基
●地方自治体が整備計画を策定し、その計画に沿って整備するケース。本体と工事費の3分の2を補助。急速充電器3700基
●マンションや月極駐車場など居住者向けに整備するケース。本体と工事費の2分の1を補助。普通充電器3万基
●レストランの駐車場など利用対象者を限定して整備するケース。本体のみ2分の1を補助。普通充電器1万1000基。
とくに注力するのが3万5700基の整備を目指す急速充電器。「ガソリンスタンドと同程度の普及を図る」(経済産業省製造産業局自動車課)ことで、EV普及の足かせとなっている“電欠”に対する懸念を払拭したい考えだ。というのも、急速充電器は現在、全国で1400基程度しか設置されていない。まさに急速な普及を目指して大きな予算を計上したといえる。
もっとも、経産省の思惑通りに整備が進むかは微妙だ。
充電スタンド整備に対する補助事業は、「クリーンエネルギー自動車等導入促進事業」としてすでにこれまで実施されている。この事業は、EV、PHVやクリーンディーゼル自動車、充電スタンド本体の購入に対して補助金を出すというもの(エコカー補助金とは別もの)。充電スタンド本体価格の最大2分の1を補助している。
2012年度予算では11年度の積み残し分を含め440億円が計上されているが、12年12月26日時点で補助金申請が受理されたのは122億円、そのうち充電スタンドに対しては5億6115万円が受理されているに過ぎない。年度末までには、これからある程度は増えるだろうが、予算消化は程遠い状況だ。なお、同事業は2013年度の概算要求にも継続して盛り込まれているが、内容が重複する部分は、補正予算に組み込まれる見込みだ。
自動車課では「補正予算の新制度では、設置工事費にも補助金を出すようにしたほか、自治体の計画に沿えば補助率が大幅に上がる。整備は進むと見ている」と強調する。
■ 運用コストがネックになるか
実質的な補助率が上がるのは確かに追い風だろうが、設置すると運用コストがかかってくる。そもそも肝心の電気自動車(乗用車)はまだ全国で4万台程度しか普及していない。利用料金で投資コストや運用費用を回収するのは、当面は不可能だ。
そのうえ、急速充電器の規格は現在、日本勢の推す「チャデモ」方式と、欧米勢が推す「コンボ」方式が、規格争いをしており、日本勢はやや劣勢。将来的にコンボになった場合や、併存になった場合は、無駄な投資になりかねない。
政府の重点施策の1つとはいうものの、整備が一気に進むにはハードルがありそうだ。EV陣営の悩みは尽きない。