日産の最悪シナリオ グループ解体なら技術の先細りは不可避

日産自動車カルロス・ゴーン会長の「容疑者」への転落は、まさに平成史に残る大事件となった。今後、ルノーや三菱自動車とのパートナーシップに影響を及ぼせば、新たな自動車業界の再編につながる可能性もある。モータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏が指摘する“最悪のシナリオ”とは?

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日産会長であるカルロス・ゴーン氏の逮捕は、自動車業界を揺るがす大事件でした。まさの晴天の霹靂です。

周知のように日産自動車は、1990年代に深刻な経営難に陥り、1999年にフランスのルノー傘下になりました。その経営難の日産を短期間でV字復活させたのが、ルノーから日産に派遣されたカルロス・ゴーン氏でした。

その後、日産はゴーン氏の元で再生を遂げ、さらにルノーとのアライアンスを強化。世界市場で売り上げを伸ばしていきます。2016年には三菱自動車もルノー・日産の仲間に加わり、さらに力を蓄えます。そして、2018年の上半期は、グループ全体で過去最高の553万8530台の販売を記録。年間1000万台の大台も突破し、世界一の自動車アライアンスの実現に向けて、一歩ずつ確実に階段を上っているところでした。

そんなアライアンス全体の指揮を執っていたのがカルロス・ゴーン氏です。ところが、今回の事件によって、ルノー・日産・三菱のアライアンスは指導者を失うことになったのです。

最近のゴーン氏は、各自動車メーカーのトップというよりも、グループ全体を見る立場だったため、直近の各自動車メーカーの個々の動きは、それほど大きな変化はないかもしれません。しかし、カリスマ的な指導者を失ったグループ全体の未来には不安がよぎります。

よく言われるように、現在の自動車業界は、大きな曲がり角に差し掛かっているところです。技術の進歩によって、自動運転の未来も見えてきました。ハイブリッドを筆頭に、電気自動車など、電動化も進んでいます。世界的には環境問題のために燃費規制が、どこでも年々厳しくなっています。

また、カーシェアなどの新しいクルマの使われた方も盛んに検討されています。もしかすると、ここ10~20年でクルマという存在自体が大きく変化する可能性も見えてきているのです。

そうした激動の時代を生き抜くために、自動車メーカーに求められるのが技術力です。新しい世の中になったときに、新しい技術を持っていないと生き残れません。

もしも、もっと高性能なバッテリーが普及し、インターネットと繋がったAIがクルマを運転するのが当たり前の世の中になったとき、電動化やAIといった技術を持たない自動車メーカーは、当然のようにシェアを落とすでしょう。そのため、現在の自動車メーカーは必死になって、お金を投資して、次世代技術を研究しています。

しかし、そうした次世代技術の研究には、非常に多額の資金が必要となります。そのために、現在の自動車メーカーは、どこかの大きなグループに属して、グループとして共同で次世代技術を研究しているのです。

日産もそうでした。ルノーと三菱自動車という仲間がいるから、多額な研究費用を捻出できたのです。特に日産と三菱自動車は、電動化技術を得意としています。もしも、中国における電気自動車ブームが本格化したとしても、グループとしてのメリットを生かせれば、中国市場での大きな成長が期待できます。最近の日産・ルノー・三菱自動車の好調さは、あくまでもグループとして動けていたからというのが、大きな理由でしょう。

ところが、グループのまとめ役であったカルロス・ゴーン氏が失脚してしまいました。今後の最悪なシナリオは、グループの解体と、それによる技術の先細りです。もしも、そんなことになれば、自動車業界の大きな変化の波に乗り遅れてしまう可能性が大きくなります。まさに終わりの始まりです。

自動車ビジネスは、わずか数年の不調で、あっというまに会社が傾きます。そして、そのまま消えていったブランドがどれだけたくさんあるかというほど厳しいビジネスです。

もちろん、バラバラになってしまっては、誰にとっても不利益となるというのは、グループ内のメンバーの誰もが理解しているはず。カリスマリーダーがいなくなった後もしっかりとグループの結束力を維持できるのか。そこにグループの未来がかかっていると言えるでしょう。

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