日銀の植田和男総裁は7月31日、追加利上げを決めた金融政策決定会合後の記者会見で、年内のさらなる利上げを示唆した。一方、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は「早ければ9月の会合で利下げを議論する可能性がある」と述べ、一時、1ドル=149円台まで円高ドル安が進んだ。金利上昇と円高が続けば、企業倒産が増えて雇用が失われるなど国民生活が崩壊しかねない。
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植田総裁は記者会見で、政策金利について物価上昇率が想定通りなら「一段の調整があり得る」と述べ、年内にさらに利上げする可能性を否定しなかった。利上げは「景気に大きなマイナスの影響は与えない」とも強調した。
日銀が今回、追加利上げを決めた背景には、円安の是正を喫緊の課題とする政府・与党からの有形無形の圧力があったとみられる。
円安が落ち着いて輸入物価が下がり、値上げラッシュが落ち着けば家計にとってメリットがあるのは確かだ。だが、日本経済全体にとっては円安のほうがプラスであり、円高が進めば、過去最高の税収が続くなど好調な企業収益が腰折れする懸念がある。
また、利上げによって住宅ローン契約者の7割が選ぶ変動型の金利の上昇も避けられない。企業が運転資金などを借り入れる際の金利も上がる見込みだ。中小企業を中心に返済負担が重くのしかかり、倒産件数が拡大すれば、アベノミクスで改善してきた雇用が再び悪化する懸念がある。
政治の顔色を見て追加利上げした日銀は、危険な一歩を踏み出したのではないか。