旧ジャニーズ事務所「和解金」に5つの疑問…被疑者死亡で時効成立でも支払うの?

ジャニーズ事務所が2度目の会見を開き、新たに向かうべき方針を示した。今後、注目すべき点のひとつは、故・ジャニー喜多川氏から性被害を受けた人たちとの和解金の在り方。損害賠償を誰に求めるのか、公訴時効の消滅はどうなるのかといった問題もある。 ジャニーズの性被害者“分断”対応に猛批判…カウアン氏らを「事務所イメージ回復に利用」の声  ◇  ◇  ◇ ■「100億円」の資産は本当なのか  2002年1月、米ボストン・グローブ紙がカトリック司祭による性的虐待を最初に報道し、世界を震撼させた。130人以上に性的虐待をした神父を実名報道し、しかもその事実を組織ぐるみで隠蔽しているというものだった。ジャニー喜多川氏(19年に死去)の犯罪構図も同じであるが、数百人とされる被害者の数をみれば、それ以上の犯罪史に残る未曽有の事態と言っても過言ではない。  和解金については一部報道で「被害者1000人として1人につき1000万円で計100億円」という試算まで飛び出している。

強制性交の時効は過ぎているのではないか

カウアン岡本氏(C)日刊ゲンダイ

「強制性交の和解金(示談金)の相場は100万~数百万円というのが一般的ですが、今事案については裁判所の過去の例が当てはまらず、正直、時効の問題もあって法律家としてお答えできません。1人当たりの金額は、むしろ予算(支払可能額)から逆算されて割り振られる可能性が高いと思います」(アトム市川船橋法律事務所・髙橋裕樹弁護士)  和解金は、慰謝料のほかに治療費や休業損害、逸失利益などで計算される。本来はデビューして「売れっ子スターになっていた」かもしれないなど逸失利益は積算は極めて難しいのも事実。被害者が未成年の場合は慰謝料も高くなる傾向がある。  ちなみに、派遣型マッサージ店の女性従業員に暴行を加えたとして強制性交罪に問われた俳優の新井浩文は、1審で女性側に2000万円の和解金を申し出たと証言していたが、女性側がこれを固辞。その後の2審では民事上の和解が成立したことが明らかになり、「(1審の懲役5年から)1年減刑して懲役4年」の判決が言い渡されている。 「強制性交罪の公訴時効は犯罪行為が終わった時点から数えて10年、強制わいせつ罪は7年です。そのため多くの被害者は公訴時効が過ぎています。カウアン・オカモトさんについてはジャニーズJrとして活動していた時期が2012年から16年とありますので、ギリギリ間に合うことになります。そもそも、日本では2017年の法律改正までは強姦罪の被害者は女性に限られていました。しかも暴行または脅迫を用いなければ強姦にならないため、処罰ができないのです」(髙橋弁護士)  男性への強制性交(肛門内・口腔内)については7年前までなら犯罪にすらならなかったというわけだ。  一方、今年6月には「不同意性交罪」の改正案が国会で可決され、強制・準強制性交罪に問われる要件が8つの類型に整理されている。これまでの「暴行又は脅迫」「抗拒不能」(抵抗できない)を細かく規定し直し、「経済的・社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮」なども加わった。 「経済的・社会的関係とは、まさしくジャニー喜多川氏の『デビューさせてあげる』『嫌ならデビューさせない』といった行為が該当します」(髙橋弁護士)  強制性交罪の罰則は「5年以上の有期懲役刑」となっているが、最高で終身刑のイギリスなど海外に比べても軽いものになっている。

ジャニー氏が死亡しているので誰が支払うのか

再発防止特別チームは「メディアの沈黙が犯罪を助長した」と厳しく指摘(C)日刊ゲンダイ

 加害者であるジャニー喜多川氏はすでに鬼籍に入っている。いったい誰が和解金を支払うのか。「東山紀之新社長が『法を超えて救済、補償が必要』と法律を超えるサポートを約束していますので、旧ジャニーズ事務所が法人として責任を持つと考えられます」(髙橋弁護士)  海外の例ではあるが、2018年、米ミシガン州立大学は、大学のスポーツ医だった男から性的暴行を受けた女子体操選手ら332人に対し、総額5億ドル(約550億円=当時)を支払っている。個人の犯罪とはいえ管理監督責任があるためという理由で、2年前には千葉市が女児に強制性交した市立小教諭の事件に絡み2035万円の和解金を払った事例がある。 ■ジャニーズJr.だけが被害者なのか  被害者の心情をおもんぱかって口をつぐんでいるが、現在も活躍中のアイドルやかつて一世を風靡したグループメンバーに被害者がいなかったのか。たのきんトリオ、シブがき隊、光GENJI、SMAP……、まだまだ多くの売れっ子タレントが所属していた。  ベテラン芸能リポーターの石川敏男氏がこう明かす。 「もちろん、有名タレントの中にも被害者は確実にいます。売れっ子は黙っているだけ。今になって性加害が社会問題化していますが、私が見聞きしただけでも、女性タレントを含めて芸能事務所スタッフによる性加害はひどいものでした。ただ、売れると皆さん黙ってしまう。そうした事実を知りながら、声を上げてこなかった自分に対して今は自責の念があります。追及していれば、被害者は3分の1だったかもしれない。こうした性被害は氷山の一角なのです」 ■今になって手のひら返し メディアの責任は  ここにきてテレビ朝日の篠塚浩社長が「性被害への意識が著しく低かったと反省している」と謝罪してみたり、日本テレビの石沢顕社長が「性加害については断じて許すことはできない」などと他人事のようにコメントしている。  というのも、今回の事件を調査した外部専門家による「再発防止特別チーム」(林真琴・前検事総長ら)が、「メディアの沈黙が犯罪を助長した」と厳しく指摘しており、加えて「ジャニーズ性加害問題当事者の会」からは「メディア各局が任意で資金を拠出する」ことを提案されているからだ。批判をされても時間が風化してくれるが、カネを出せと言われればもう他人事ではなくなる。ここにきてテレビ各局のトップが一斉に善意の第三者を装っているのには保身といった意味合いがある。 「藤島ジュリー景子氏が100%保有するという自社株も、買ってくれるところがなければただの紙切れです。今回の事件で最も罪が重いのはジャニー喜多川氏で、2番目がその事実を知って隠していた姉のメリー喜多川氏、そして3番目はジュリー景子氏ではなく、われわれマスメディアです。NHKも今さらながら紅白歌合戦への出演を規制するなどと言い出していますが、稲垣吾郎が公務執行妨害と道交法違反で逮捕された際、テレビ各局は『容疑者』ではなく『メンバー』と呼称している。メディアの罪は重いと思います」(石川氏)  テレビ局プロデューサーからの性被害の問題も横たわっている。

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