宮城県内の被災地で、個別移転の計画を進める住民が不満を募らせている。移転のための制度設計が後手に回り、早期に動きだした人が支援を受けられずにいる。被災者支援と不公平感の解消に向けて、自治体による独自助成も徐々に進むが、有効な解決策を見いだせずにいる。
気仙沼市階上地区の水産加工業藤田康悦さん(64)は、お伊勢浜海水浴場の近くにあった自宅が津波で全壊した。「すぐにでも生活を立て直したい」との思いが強く、個別移転に向けていち早く動いた。
同じ地区の高台に土地を求め、ことし3月には建設業者と契約を締結。木造2階の住宅工事も始まった。しかし、それが大きな不利益になる。
市が近く受け付けを始める「がけ地近接等危険住宅移転事業」は、今月以降に建設契約を結ぶ被災者を対象とするため、藤田さんに受給資格はない。「がけ地事業」が適用されれば最大786万円の利子補給を受けることができたが、重いローン負担だけが残った。
藤田さんは「行政は『早期復興』を揚げ、早い再建をせかしておきながら遅く着工する人にだけ利子補給を行う。同じ被災者なのになぜ支援に差が出るのか」と不平を口にする。
被災者の住宅移転は一般的に、個別移転より集団移転の方が行政の支援が手厚い。それに加え、個別移転者の中でも自己負担額に大きな差が生じるとなれば、被災者に不満が出るのは当然だ。
制度上の不具合は、自治体担当者にとっても頭の痛い問題だ。約5万3000棟の家屋が被災した石巻市。既に相当数が市の内陸側に個別移転したとみられ、「がけ地事業」をさかのぼって適用するよう求める被災者の声が寄せられている。
ただ、被災規模が大きいこともあり、市独自の支援を打ち出すのは今のところ難しいという。市幹部は「適用の遡及(そきゅう)を政府に要望していく」と説明するのが精いっぱいだ。
南三陸町は「がけ地事業」適用外の世帯に対しても相当額を助成する方針を打ち出した。「最終的には国の責任だが、被災者救済のために待っていられない」と気仙沼市も独自支援策を近く発表する予定。
一方で、どの自治体も自由に使える財源は限られており、実際にどこまで負担すべきかの判断は容易にはつかない。
被災地の住宅再建に詳しい近畿大の脇田祥尚教授(建築学)は「早期復興を叫ぶ行政の対応はちぐはぐだ。被災地の人口流出を食い止めるためにも、自治体が地元で再建する住民に独自補助を行ってほしい。それによって政府の支援を引き出す気概で取り組むべきだ」と話している。