兵庫県の六甲山(標高931メートル)から見下ろすと、ダイヤモンドをちりばめたような輝きが広がる神戸の夜景。その美しさを表現するのに用いられてきたのは「ドル」だ。戦後は「100万ドル」だったが、その後、「1000万ドル」に跳ね上がった。それはなぜなのか。(中西千尋) 【写真特集】新型コロナウイルス 動物園、水族館では・・・ ■■4市の電気料金 神戸の夜景について「100万ドル」という表現が初めて用いられたのは1950年代。戦後の復興期、団体旅行がブームとなる中、六甲ケーブルを運行する六甲摩耶鉄道(現・六甲山観光)が、山頂を訪れるレジャー客向けの宣伝文句として使い始めたという。 米国では元々、素晴らしいものを「100万ドルの~」と表現することがある。1ドル=360円の固定相場だった53年10月、関西電力の広報誌「ひらけゆく電気」には中村鼎(かなえ)副社長(当時)の次のような随筆が掲載されている。 「夜景の灯を大阪、尼崎、神戸、芦屋の4市として計算してみると、料金月額4億2900万円となる。これをドルに換算するとまさに100万ドル強ということになる。偶然であるが、夜景の称呼に一致する」 ■■昇格を提案 その後、高度成長や73年の変動相場制への移行などで円高が加速。核家族化が進んで世帯数が増え、物価も上がっていたことなどから、六甲摩耶鉄道が「1000万ドル」への昇格を神戸市などに提案した。 バブル崩壊後1ドル=100円を切ることもあり、同社は2005年、「1000万ドルの宣伝文句は本当なのか」と改めて調査した。 山上にある展望施設「六甲ガーデンテラス」から一望できる阪神地域や大阪府内に350万世帯が暮らすとはじき出し、一般家庭の平均的な1か月分の電気代(6600円)から、1日あたりの電気代を約700万ドルと推計した。 オフィスビルなどの業務用の電気代を関電に問い合わせると、「300万ドルを大幅に上回る」との回答を得たため、1000万ドル超になると結論づけたという。