観光振興などの面も期待される、長野県内での映画撮影。撮影場所の誘致や支援を行うフィルムコミッションなどの活動もあり、近年、数多くの映画が撮影されているが、施設使用料などが回収できなくなるトラブルも起こっている。【安元久美子】
信濃町出身の江戸時代の俳人、小林一茶の生涯を、リリー・フランキーさん主演で描く映画「一茶」が昨年9~10月、飯山市内で撮影された。廃校で撮影したり、エキストラ約140人が参加したりするなどし、撮影の窓口となった観光PRなどに取り組む一般社団法人・信州いいやま観光局(飯山市)はスタッフや出演者らの宿泊、弁当の手配などをして代金を立て替えた。
その経費の支払いを制作会社「オフィスティーエム」(東京)に求めたが昨年11月末の期限までに振り込まれず、交渉を続けたが、東京商工リサーチによると同社は今年10月、東京地裁に破産申請。観光局は約1567万円が回収できず、同様に撮影場所となった須坂市の田中本家博物館も2日間の施設使用料数十万円を受け取れなかった。
この映画の宣伝・配給を担当していたKADOKAWAは今年8月末に宣伝費が回収できないなどとして同社と契約解除し、10月中旬の公開も延期になった。現在、当時のスタッフらが公開を目指して動きだしてはいるが公開には至っていない。
「私たちの時と同じだ」。信州いいやま観光局がロケ費用を回収できない事態となっていることを知り、ある県内施設の管理会社の担当者は振り返る。5年前、東京の制作会社に映画撮影のために施設を貸し出した。しかし、施設使用料や人件費約62万円のうち約12万円しか回収できなかった。
担当者は「被害にあった時には『まさか』という気持ち。会社の意向で最後は諦めました。勉強代だと思っている」と語った。支払いを求めて内容証明郵便を送るなどしたが少額しか支払われず、撮影3年後に全額回収を断念した。その後は「前金」として、使用料の25%の支払いを求めるようにしたという。
県内のフィルムコミッション関係者は「制作側と仲介するだけで、金銭の立て替えは基本的にしないようにしている」といい、施設使用料などのやり取りは当事者同士の話になる。ジャパン・フィルムコミッション(東京都)によると「継続した付き合いのない地方への支払いは後回しになる場合もある」という。「制作会社や映画の背景を確認するためにもフィルムコミッションに問い合わせるなど、情報共有することが重要」と注意を促している。