東北各地で昨年相次いだツキノワグマによる人身被害が減っている。4~10月の東北森林管理局管内(福島を除く東北5県)の発生は25件26人で、110件122人だった昨年から激減。冬眠前の餌とされるブナの結実状況の改善が、要因の一つとみられる。ただ、昨年、全国最多の70人が襲われた秋田県の担当課は「異常事態の年とは安易に比較できない」と強調し、油断せず被害防止策を取るよう促す。
(秋田総局・柴崎吉敬)
専門家「油断せずに防止策を」
秋田県では横手市で農作業中の80代男性が襲われた8月13日を最後に人身被害が起きていない。4月以降の発生は9件10人。11月中旬時点で61件69人だった前年から大幅に減った。10月までの目撃情報も997件と昨年(3000件)の3分の1にとどまり、県は今月、県全域への出没警報を注意報に切り替えた。
県自然保護課によると、出没ペースは春先に比べて落ち着きつつあるが、目撃件数は例年以上だという。担当者は「まだ人里で遭遇する恐れがある。冬眠期まではクマを近づけないための対策を呼びかける」と気を引き締める。
4~10月の岩手県の人身被害は9件9人で、過去最悪を更新した昨年同期(39件42人)の4分の1ほど。県の呼びかけも、これまでは注意報にとどまっている。青森県は10件11人から4件4人に、山形県も5件5人が3件3人にそれぞれ減少。2件2人だった宮城県は本年度の被害は確認されておらず、目撃も704件と前年より200件ほど少ない。
東北森林管理局が公表する福島以外の東北5県のブナの結実状況は昨年度、全県が「大凶作」だった。本年度は、青森、宮城が「豊作」、岩手、秋田、山形が「並作」。5県ともに「並作」以上となるのは11年ぶりだ。
毎年秋田県内を調査しているNPO法人日本ツキノワグマ研究所(広島県廿日市市)の米田一彦代表は、「山が豊作のためクマの移動が少ないのだろう。人里に出た若い個体が昨年、大量に駆除された影響も大きい」と説明する。
一方、昨年は出産数が特に多かったとして、東北で山の餌が凶作に転じるとみられる来年は2歳になるクマの出没増加を危惧する。米田さんは「静かな今のうちに、雑木の刈り払いや収穫しない柿の木の伐採といった備えをしておくことが大切だ」と訴える。