■薬物、行動療法で症状コントロール
昼間、学校で試験問題を解いているとき、あるいは大切な商談をしているときや車の運転中など通常は眠らない状況で、居眠りをしてしまう人がいる。「ナルコレプシー」(居眠り病)が疑われるが、やる気のなさや疲労、鬱病(うつびょう)などからくるものでは決してない。日常生活に支障を来す恐れがあり、しかも一生続く病気なので、薬物療法や行動療法が必要となる。何よりも周囲の理解が大切だ。(篠田丈晴)
≪睡眠足りても≫
ナルコレプシーは、前夜に十分な睡眠を取っていても、毎日のように日中に耐え難い眠気に襲われ、居眠りを何度も繰り返してしまうことが、大きな特徴。勉強中、仕事中など時や場所に関係なく眠り込んでしまう。大阪回生病院睡眠医療センター部長の谷口充孝医師は「本来は緊張して、絶対に眠る場面でないのに寝入ってしまう。それほど猛烈な眠気です。不本意にも、それで職場や学校などで怠惰とみなされてしまう恐れがあります」と説明する。
これに加え、笑ったり怒ったりすると、体の筋肉の力が抜けたり、ろれつが回らなくなったりする「情動性脱力発作」、寝入りばなや目が覚めたときに金縛りにあう「睡眠麻痺(まひ)」、入眠時に鮮明な夢のような幻覚をみる「入眠時幻覚」などの症状がみられる。
≪難しい診断≫
日本人の0・16~0・18%がナルコレプシーにかかっているといわれるが、多くは思春期に発症し、14~16歳がピークとされる。男女差はない。遺伝的要因も指摘されるが、第1親等の血縁者に患者がいる場合でも、発症する頻度は1~2%程度という。一方で、最近の研究で、この病気の患者では、脳内の神経伝達物質オレキシンが著しく欠乏していることが分かってきた。
ただ、専門医が少ないうえ、単なる睡眠不足が疑われる症状との見極めなど、一般に診断をつけるのは難しいといわれている。谷口医師も「日中の過度の眠気と居眠り、情動性脱力発作の両方があれば、典型例として診断できます。しかし、個々の睡眠の量や質によって、グレーゾーンが広いのも事実です」と指摘する。
診断とその検査には、「睡眠ポリグラフ検査」と「睡眠潜時反復テスト」を実施する。前者では、夜間に頭や耳に電極を張り付け、脳波などを記録。夜の睡眠の特徴を検査し、ナルコレプシーと合併することがある睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害の有無を調べる。後者は昼間に同様の検査を、数時間おきに20~30分ずつ繰り返して行い、眠気の程度を測る。
谷口医師は「『眠ってください』と指示して、10分以上眠れなかったら正常範囲ですが、ナルコレプシーの患者は前夜に十分な睡眠を取っていても8分以内、たいていは1~2分で眠ってしまう」と話す。
≪周囲の理解必要≫
今のところ、根本的な治療法が確立されていないため、患者は薬物療法や行動療法などで、症状をコントロールしていく必要がある。日中の眠気については、覚醒(かくせい)効果を持つ精神賦活剤が効果的だが、今年3月28日から欧米でよく使われるモダフィニルという精神賦活剤も保険適用となった。
谷口医師は「ただし、薬剤によっては、薬に対する慣れや依存が出てくるため、医師の処方に基づいて、時々“休薬日”を設けるなどの工夫をしてほしい」と呼びかける。
また、毎日同じ時間に寝たり、起きたりする正しい睡眠習慣や、決まった時間に昼寝を取る習慣をつけるなどの行動療法でも、症状の緩和がみられることがある。
ナルコレプシーを治療していくためには、周囲の理解が大切になってくる。谷口医師は「病気のために日中に寝てしまうわけで、怠惰ややる気のなさなどではないと、多くの人に知ってもらいたい」と話している。
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