京都・太秦(うずまさ)は、言わずと知れた時代劇の聖地。その本丸中の本丸といえる東映京都撮影所(京都市右京区)から、遅まきながら和風アイドルグループが誕生した。歌って踊るのは、東映俳優養成所出身の3人娘。時代劇を知りつくした、撮影所のふたりの大ベテランが、京都の役者を守り育てるためならばと、ひと肌脱いでプロデュースした。
そこは、いつもなら遠山の金さんが片肌脱いで桜吹雪の彫り物を見せつけ、大岡越前が情理をつくした裁きを下す、お白洲(しらす)のセットだった。3月27日、東映京都撮影所の撮影ステージで催された俳優養成所の修了公演が、新生アイドル「UZUMASA KANBAN GIRL(ウズマサカンバンガール)」のお披露目の場となった。
メンバーは、大学3回生の愛恵(まなえ)さん(20)、同1回生の聖柚葉(ひじりゆずは)さん(18)、高校3年生の藤窪椎菜(ふじくぼしいな)さん(17)の3人。「太秦の看板娘」というコンセプトの下、人気アイドルグループ「ももクロ」の初期を思い起こさせる着物風のコスチュームで登場し、唯一の持ち歌の「Kanban Girl」を全力で歌いきった。
ステージの片隅では、彼女たちの初々しい晴れ姿を一瞬たりとも見逃すまいと、ふたりの小太りの男性が保護者目線で見守っていた。このアイドルプロジェクトの仕掛け人になった、撮影所の俳優部長、進藤盛延(もりのぶ)さん(59)と同次長の矢後義和さん(53)である。
進藤さんは20歳のとき、録音技師でこの世界に入り、TBS系の「水戸黄門」の製作も長年にわたり仕切ってきた名物男だ。矢後さんも、1989年に東映に入社してから、京都撮影所ひと筋で時代劇やサスペンスドラマのプロデューサーをつとめた。一昨年、総勢約190人いる俳優のマネジメントを統括する俳優部が立ち上げられてからコンビを組んでいる。
アイドルプロジェクトは、このふたりの思いつきで昨夏に始動した。演技の基礎を教える俳優養成所(1年制)の、いわば課外授業だと進藤さんは言う。「うちの役者さんは、撮影所で撮る作品や東映太秦映画村のイベントに出られるけど、作品数が減って、それだけで食べていくのは容易ではない。芝居の勉強以外に、プラスアルファになる経験を何かさせてやれないかと思案していたら、アイドルどうや、という話になった。歌と芝居は相通ずるし、化学変化が起こるかも知れんからね」