宮城県内の新型コロナウイルス感染者が3日、累計1万人を超えた。大台突破が通過点でしかない中、求められる対策は何か。政府のクラスター対策班メンバーの小坂健東北大大学院教授(公衆衛生学)に聞いた。
(聞き手は報道部・佐藤素子)
実際は3万人感染か
1万人の感染判明は、感染を捕捉できない人がその倍はいると見込まれ、県人口の1%余りに当たる約3万人が感染した計算になる。それでも欧州の十数%よりはるかに少ない。
宮城では、感染200人など大きな数字に接すると「これはまずい」と行動が抑制された。まん延防止等重点措置だけで人流が減り、緊急事態宣言を出さずに感染者が抑えられたのは宮城だけと言っても過言ではない。春先の第3波で入院が難しい状況になった経験が生きている。
お盆、年末年始、年度末は感染者が増える。宮城は五輪を有観客にした影響も懸念される。飲食店への時短営業要請や自粛頼みは限界だ。県民に閉塞(へいそく)感が漂っている。
海外では人数制限重視
日本では時短要請ばかり目立つが、海外では営業時間でなく人数制限を重視している。飲食店の入店は多くの国で5人まで、韓国やシンガポールは2人までだ。シンガポールは結婚式に招待できる人数、葬式に呼べる人数まで決めている。
帰省したい人、旅行したい人、飲食店に行きたい人など向けに、したいことを可能とする指針を策定すべきだ。例えば、帰省するなら1週間前から行動を自粛する、帰省先で多くの人とは会わない、といった安全に行動できる具体例を示せばいい。
3密回避が中心の対策から「換気」「マスク常用」「ワクチン接種」の三つにシフトして新型コロナと闘う時期に来ている。休校も効果はあるが、保護者が仕事を休まざるを得なかったり、家族内感染が増えて高齢者が危険にさらされたりする懸念もある。
ワクチンの接種歴を証明する「ワクチンパスポート」は接種しない人への配慮が必要になるが、有効な公衆衛生対策と言える。パスポートをきっかけにスマートフォンで内服薬やワクチン接種歴を管理、表示できるようにするなど、政府には医療のデジタル化を見据えた対策を講じてもらいたい。
[おさか・けん]東大大学院医学系研究科修了。国立感染症研究所主任研究官、厚生労働省老人保健課長補佐などを経て、2005年から現職。厚労省クラスター対策班、東京都東京感染症対策センター専門家ボードの各メンバーを務める。57歳。長野県出身。