景気「二番底」回避に正念場 民間シンクタンク、厳しい見方

日本経済が踊り場にさしかかる中、今年度後半から来年度にかけて景気が再び悪化に転じる「二番底」の懸念が出ている。景気を牽引(けんいん)してきた輸出や生産の勢いが衰えるとみられる上、急激な円高が経営環境の悪化に拍車をかけているためだ。民間シンクタンクには、来年度の実質国内総生産(GDP)を前年度比0・6%増と見込むところもあり、日本経済は正念場を迎えようとしている。
 ■企業生産に変化の兆し
 2年前のリーマン・ショックで急降下した日本経済は、昨年1~3月期にどん底へと落ち込んだ後、着実に回復してきた。輸出やエコポイント制度などの政策が後押ししたためだが、ここにきて「景気は変調を見せ始めた」(野村証券金融経済研究所の木内登英(たかひで)チーフエコノミスト)
 それを端的に示しているのが企業の生産活動だ。製造業の生産量を示す7月の鉱工業生産指数は前月比0・3%の小幅上昇にとどまっており、四半期ベースでは7~9月期に1年半ぶりのマイナスへと転落する可能性がある。
 8月の政府の月例経済報告では、生産についての判断を前月の「持ち直し」から「緩やかに持ち直し」へと1年7カ月ぶりに下方修正した。生産の弱まりに景気の潮目の変化を感じるエコノミストは多い。
 ■外需頼みが致命傷
 「企業が生産に慎重になってきたのは海外経済が減速してきたからだ」と語るのは、みずほ総合研究所の市川雄介エコノミスト。
 米国では昨年2月に打ち出した7870億ドル(約66兆円)の景気対策費のうち半分を今年3月末までに使い切った。政策効果が薄れる中、景気回復はペースダウン。例えば住宅購入者向け減税を4月に打ち切ったことが響き、7月の中古住宅販売戸数は383万戸と1999(平成11)年の統計開始以来、最低の水準まで落ち込んだ。
 明治安田生命は、今年1~3月期に年率で前期比3・7%増だった米国の実質GDPが7~9月期以降は3%を切ると予測。財政不安がくすぶる欧州連合(EU)圏は1%に満たない低成長になるとみている。
 「日本の輸出の勢いが鈍化することは避けられない」(日興コーディアル証券の岩下真理チーフマーケットエコノミスト)。日本の今年4~6月期の実質GDPは、底だった昨年1~3期と比べて4・5%増になるが、その間の成長にどれだけ貢献したかを示す「寄与度」をみると、輸出の役割の大きさが分かる。外需頼みの日本にとって、輸出の弱まりは致命傷だ。
 ■8兆円の需要減
 輸出と並ぶ懸念材料は、政策的に下支えしてきた個人消費の落ち込みだ。10月には政府のエコカー購入補助制度が終了。日本総合研究所は10月以降の国内自動車販売台数が1割分(月約4万台)減ると予想する。
 家電のエコポイント制度は、追加経済対策で来年3月まで延長される方向になった。それでも来年7月の地上デジタル放送への完全移行までにテレビ需要が一服、来夏には年換算のテレビの市場規模が現在の3分の1程度の650万台に縮小するとみる。「耐久消費財の需要減だけで日本のGDPの1・6%に相当する8兆円程度がなくなる可能性がある」(日本総研の松村秀樹主任研究員)
 ■賃金は頭打ち?
 さらに円高・株安で経営環境は一段と悪化。野村証券が主要企業400社に行った調査によると、対ドルで1円の円高になれば、今年度の経常利益は0・5%減少。円高は輸出の減速に拍車をかける大きなマイナス材料となる。
 企業を取り巻く悪い流れは家計も直撃。今年7月までの現金給与総額は前年同月比で5カ月連続の増加だったが、第一生命経済研究所の永浜利広主席研究員は「秋以降は賃金は頭打ちになるのではないか。春闘での固定給の引き上げも厳しい条件になる」とみる。
 大学の今春卒業者のうち進学も就職もしていない人は8万7千人。卒業者に占める割合は16・1%に達するが、企業が採用を絞り込めば、若年失業者はさらに増えそうだ。
 ■足引っ張る政局混迷
 「輸出と個人消費の鈍化→生産低下→雇用環境の悪化」という負の連鎖が懸念される中、経済成長率見通しを下方修正する民間シンクタンクも多い。第一生命経済研究所のまとめによると、シンクタンク15社平均の今年度予想は、5月ごろの予想より0・5ポイント下方修正して前年度比1・9%増、来年度は0・3ポイント下方修正して1・5%だった。
 焦点は、踊り場にさしかかった景気が二番底に向かうかどうかだ。「世界経済にはあちこちに地雷が埋まっている」と大和総研の熊谷亮(みつ)丸(まる)チーフエコノミストが警戒するように、欧米だけでなく、高成長が続く中国経済にもインフレ懸念がつきまとう。世界経済の歯車がかみ合わなくなれば、日本経済にそれを跳ね返す余力はない。
 政治の混乱が景気の足を引っ張る恐れもある。バークレイズ・キャピタル証券の森田京平チーフエコノミストは「衆参両院だけでなく、民主党内のねじれも露呈している。民主党代表選が終わっても『二重のねじれ』が消えるわけではなく、政策対応が後手に回るリスクがある」と分析。三菱総合研究所の武田洋子シニアエコノミストは「経済対策で二番底を回避する手を打っておくことが重要だ」と指摘している。
 景気が再び回復軌道に乗る時期について、富士通総研の米山秀隆上席主任研究員は、世界経済が持ち直すことを前提に「来年度後半くらい」と予測。その場合でも、民需中心の自律的な回復にはほど遠いとみており、「日本は人口減少による内需不足の経済構造なので、海外からの投資を呼び込んだり、国内投資を活発化させたりする政策の強化が重要だ」と強調した。日本経済が蘇るかどうかは、政府が6月にまとめた新成長戦略の実効性を上げられるかどうかにもかかっている。

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