最悪期を抜け出した会津若松の観光業、廃業続出の懸念をはね返し予想外の回復ぶり

 東日本大震災と原発事故による風評被害に苦しんできた福島県会津若松市の観光業。一時は倒産や廃業の続出も懸念されたが、思いがけぬ回復ぶりを見せている。
 市内最大の温泉街である東山温泉では、昨年11月以降、月間の来客数が前年同月の実績を上回って推移。鶴ヶ城天守閣の入場者も昨年9月から前年同月を上回る月が多い。
 東山温泉で「千代滝」「新滝」の二つの旅館を営む「くつろぎ宿」の深田智之社長は、「原発事故の避難者が仮設住宅に移った後は、最悪の場合、宿泊客の5割減も覚悟しなければならない。雇用維持も危うくなる」と昨年8月中旬に本誌の取材に答えていた。だが、昨年11月前後から、県内や首都圏からの個人客を中心に宿泊客数が急回復。「現在まで震災前の売り上げを上回る月が続いている」(深田社長)。
 同じ市内の芦ノ牧温泉では、一部の旅館で人員整理が実施されたものの、市内のほとんどのホテルや旅館は従業員の雇用を維持している。
 鶴ヶ城前でレストランや土産物の販売業を営む「鶴ヶ城会館」の下平剛会長は、「今年4~5月の売り上げは震災前の8割くらいまで回復してきた」と胸をなで下ろす。
 下平社長は業界ぐるみで風評被害への賠償を東京電力に求める取り組みを行ってきた。「私たちが求めてきた条件を勝ち取ったことで、困難を乗り切る自信がついた」と語る。
■教育旅行の回復は途上
 もちろん厳しさが続いていることは確かだ。とりわけ落ち込みが大きいのが、「教育旅行」(修学旅行や林間学校)だ。震災・原発事故以前の2010年度(10年4~12月の9カ月間)には教育旅行で会津若松市を訪れた学校は1081校に上っていたが、11年度(9カ月)には564校に半減。中でも県外の学校は841校から100校に激減した。会津若松観光物産協会の渋谷民男統括本部長によれば、12年度も200校前後にとどまる見通しだ。
 協会では千葉県や新潟県、宮城県など震災前に多くの実績があった県の学校を手分けして訪問。事情説明に努めてきたものの、「福島県に子どもを旅行させることへの保護者の懸念が払拭できていない」(渋谷氏)という。
 県外の減少の穴を埋めているのは県内からの教育旅行だ。福島県が費用の一部を補助する制度を設けたことで、県内からの来訪は10年度の240校から11年度には464校へと倍増。鶴ヶ城や白虎隊の悲劇で知られる飯森山の参道入り口では郡山市や須賀川市など県内からの児童の姿が目立つようになった。
 実は、厳しい状況が続く県外からの教育旅行にも少し変化が見られる。「生徒130名の宿泊の予約をしたい」。くつろぎ宿の深田社長のもとに最近、宮城県の高校からこんな要請があった。
 原発事故直後の昨年3月13日から4月20日にかけて、くつろぎ宿では福島県大熊町の住民を無料で受け入れた。当時、一般客のキャンセルが続出する中で、深田社長は避難者を受け入れる用意を地元の新聞を通じて表明。ピーク時の3月18日には、1356人もの避難者が二つの旅館で体を休めた。
 その後、4月3日からは行政の指定による2次避難施設として3カ月にわたり部屋のほとんどを提供した。「宿泊に際しては、そうした避難者受け入れの経験を子どもたちに聞かせてほしい」というのが高校側の希望だった。
 深田社長によれば、「同様の趣旨の修学旅行の予約が9月以降、3件もある」という。
 原発事故での苦難の経験を学びたいという機運が、教育現場で生まれ始めたのかもしれない。
(岡田広行 =週刊東洋経済2012年7月21日号)

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