複雑な思考を使う仕事や人とコミュニケーションを取る仕事をすると、認知症などの発症を予防したり遅らせたりすることができるという研究結果がカナダ・トロントで開かれたアルツハイマー協会の国際会議で発表されました。
キーワードは、複雑さ、そして人とのかかわり
ワシントン・ポスト紙によると、複雑な思考を使ったり、人とやり取りをするような仕事が、不健康な食生活による認知症の発症を抑制することとの関係性を調べた研究が先日行われたようです。
欧米諸国の食生活(赤身や加工肉、精製されたパン、じゃがいも、加工食品やスイーツなどに代表される)は認知機能を衰退させることと関連があるとされていますが、これによって認知機能低下などのマイナスの作用が懸念されていました。
しかし、新たな研究では、より脳を刺激する仕事に就くことで、これを相殺される効果が期待できるというものです。
その抑制効果が最も高いとされる職種には、弁護士、教師、ソーシャルワーカー、技術者や医者などがあり、その逆は肉体労働従事者、レジ打ち、スーパーや倉庫での棚の荷降ろし作業や機械のオペレーターなどが該当します。
ま た別の研究では大脳白質病変患者(※脳のMRIを撮ると、白点となって見られる状態で、アルツハイマー型や虚血性認知症に関係するとされているもの)が増 えていますが、この白質病変が引き起こす障害に対して、前述のような人と接する職種の人は、モノやデータを扱う職種よりも障害耐性があるということがわか りました。
この研究の中では、人とのコミュニケーションを頻繁に取る仕事というのは、“メンタリング(対話と気付きによる指導)”に関わる職業のことを指します。
例えば、ソーシャルワーカー、内科医、スクールカウンセラー、心理学者、牧師などは、一番複雑な脳の機能を使っているようです。
逆に、“インストラクション(指示命令)”や“ヘルプ(援助)”を受けながらおこなう仕事は、その中では一番単純なものなのだそうです。
新しく示された認知症の前兆指標とは?
認知的予備力とは、日頃から鍛えてある脳が少しのダメージを受けても認知機能に影響を受けない力のことを指します。
その認知的予備力は、病気進行の初期にすでに機能しているということは、予備力が低下したことを感知して何らかの方法でこの予備力を増大させるような働きが早い段階で介在していたことを意味するのではないかとウイスコンシン大学のブーツ教授は言います。
別の研究ではこれまで認知症やアルツハイマー病を発症する前にあらわれる「軽度認知機能障害(MCI)」という判断指標がありました。
しかし、新たに「軽度行動障害(MBI)」というものが、アルツハイマー病と診断される前の記憶障害が現れる状態として今回の研究では提案されたそうです。
記憶力の低下は、認知症やアルツハイマーの典型的な症状です。
しかし不安、混乱、方向感覚の喪失などもしばしばその初期に現れます。
MBIは晩年になって現れ、6ヶ月以上継続して症状が続く精神神経系障害の兆候を定義したもので、医師はこのチェックリストを用いて病気を早期に発見できるそうなのです。
このチェックリストは感心や意欲、気分や不安、衝動制御、社会適合、思考という5つのカテゴリから構成されています。
中高年の人で新たにこのような兆候が見られた場合、次第に衰えが進み、軽度認知機能障害(MCI)の状態へ移行するとしています。
このような行動障害は、これまでは他の精神病との区別が難しかったようで、精神科的な治療や決められた薬による治療を受ける結果になっていました。
しかし、症状がもっと早い段階で見分けられれば、精神病としての治療でなく認知症としての治療を受けることができると、カナダ・カルガリー大学のIsmail氏は言います。
アルツハイマー協会のマリア・カリーリョ氏はこの新たなチェックリストが提案されたことに「(診断方法の)パラダイム・シフトが起きそうな意義が感じられる」と話しています。
日本国内でも認知症は約800万人と言われており、認知症やアルハイマーについての関心は高めです。
なるべく質の高い人生を送るためには、いかに長く寝たきりにならずに生活できるかという身体面での「健康寿命」に加えて、いかに認知機能の低下を防いだり、遅くできるかという観点から食生活や仕事の選択をすることも有効なようです。
単純作業は特にこれからロボットがほとんどを担う時代がやってきます。
そんな中で人間に必要なことは、やはり「人とのコミュニケーション」なのではないでしょうか。
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Source by: Alzheimer’s Association International Conference, ワシントン・ポスト, MBIチェックリスト, MCIの判断基準
文/桜井彩香