アメリカ航空宇宙局(NASA)が人類を再び月に送り込むアルテミス計画を2019年に発表しているように、アメリカでは月面開発の機運が高まっています。2024年4月にアメリカ政府は科学者に対し、月面の時間基準を確立するよう呼びかけており、この結果「月は地球よりも1日当たり56マイクロ秒時間が速く進む」ことが明らかになりました。
A Relativistic Framework to Estimate Clock Rates on the Moon – IOPscience
Time moves faster on the moon, new study of Einstein’s relativity shows | Live Science
20世紀の物理学者であるアルベルト・アインシュタインは、「2人の観測者が同じ方向かつ同じ速度で移動した場合にのみ、1時間の長さについて意見が一致する」と提唱しています。これは地球の表面にいる人と、軌道上または月にいる別の人との間にも当てはまり、国立標準技術研究所(NIST)の理論物理学者であるビジュナス・パトラ氏は「もしも私たちが月面にいるなら、時計は地球上とは異なった進み方をするでしょう」と述べています。
パトラ氏によると、月は地球よりも重力が小さいため、地球よりも時間はより速く進むとのこと。実際にNISTの物理学者であるニール・アシュビー氏らは、アインシュタインが提唱した一般相対性理論を用いて月と地球の時間の進み方を算出しました。
月や地球の公転や潮汐力、完全な球体からの逸脱度合いなどを考慮した複雑な計算の結果、月は1日当たり0.000056秒(56マイクロ秒)地球よりも速く時間が進んでいることが明らかになりました。
この「56マイクロ秒」という時間差は人間の基準からすると非常に小さいものですが、ピンポイントの精度で複数のミッションを誘導したり、地球と月との間で通信したりするとなると、この時間差は重大なズレとなります。現代の精密ナビゲーションは、光速で移動する電波を使用した時計の同期に依存しており、NASAのシステムエンジニアであるシェリル・グラムリング氏によると、光は0.001マイクロ秒(1ナノ秒)で30cmも移動するため、56マイクロ秒という時間の不一致を考慮しない限り、月面では1日当たり17kmものナビゲーションエラーが発生する可能性があるとのこと。また、精度の高さが求められるアルテミス計画では、すべての探査車や着陸船、宇宙飛行士の現在位置を常に誤差10m以内で把握しておく必要があるそうです。
グラムリング氏は「相対性理論のコミュニティは、すべての計算結果などを公開することで、私たちに大きな貢献をしてくれています。私たちは計時専門家の国際コミュニティによって『これが月で標準化できる時間モデルかもしれない」と呼べるものを手に入れることができました」と語っています。