月販1000台越え!マツダ ロードスターの人気が再燃している理由

(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)

 ここへ来て、マツダのスポーツカー「ロードスター」の人気が急上昇している。2022年1月の国内販売台数は1122台。日本自動車販売協会連合会の「乗用車ブランド通称名別順位」で38位だった。これはマツダ「マツダ3」、スバル「インプレッサ」に続く順位で、トヨタ「CH-R」や三菱「デリカD:5」を抑えた。ロードスターの国内月販1000台越えは、2016年にハードトップの「RF」を導入したとき以来である。

 ロードスターは2015年から現行の4代目(ND系)となり、2016年以降も販売は堅調だったが、コロナ禍になり販売動向に陰りが見え始めていた。それが2020年後半から前年比を上回り、その流れが2021年12月から一気に上向いた形だ。

なぜフルモデルチェンジから7年目で人気再燃?

 なぜこのタイミングで「ロードスター」人気が高まっているのか? マツダはその理由として「大きく2つの可能性があり、そこに商品改良が上手く連動した」と分析している。

 可能性の1つ目は、コロナ禍により、個人のライフスタイルに対する考え方が変化したことだ。長らく“巣ごもり”を強いられたことで、オープンカーに乗ってみようという、ユーザーの“心の扉”が開いた。「ロードスター」の商品概要書の最初に、「人生を楽しもう」という言葉がある。そんなロードスターの商品特性がユーザーの心を捉えたというわけだ。

 2つ目は、欧州を震源地としてグローバルに広がっている「EVシフト」に代表される電動化の影響だ。軽量コンパクトで、純ガソリンで走るスポーツカーを味わえるのは「今がラストチャンスかもしれない」という思いを抱く人が増えているようなのだ。

 さらに、2022年1月の販売台数が大きく伸びた直接的な原因は、2021年12月16日発売した、各種の商品改良によるものである。商品改良後、購入年齢の平均が51歳から46歳へと5歳若返ったという。30代未満の構成比が15%から30%へ倍増した影響が大きい。

NDを飛躍させた特別仕様車「990S」

 商品改良の目玉は、特別仕様車「990S」だ。「990」とは車両重量「990kg」を指す。最廉価・最軽量グレードのSグレードをベースに、レイズ(RAYS)製の鍛造ホイールを採用して4本で約3.2kg軽量化した。スポーツカーは、バネ下荷重と称する領域での軽量化が操縦安定性に大きく寄与するため、この3.2kgの効果は極めて大きい。

 また、走行性能を上げるため、フロントブレーキに伊ブレンボ製ブレーキローターとキャリパーを採用。サスペンションは、コイルスプリングを若干硬めにすると同時に、ショックアブソーバーの伸び側の減衰力を弱めたことで、乗り心地と操縦安定性をうまくバランスさせた。エンジン制御を微調整し、アクセルレスポンスも高めた。「990S」に搭載されたエンジン。制御系の改良を行いアクセルレスポンスを向上させた(筆者撮影) © JBpress 提供 「990S」に搭載されたエンジン。制御系の改良を行いアクセルレスポンスを向上させた(筆者撮影)

 さらに、マツダがキネマティック・ポスチャー・コントロール(KPC)と呼ぶ、コーナーリング中にクルマの姿勢を安定させる機能も新開発した。これは、左右の後輪の速度差を検出し、速度差に応じてコーナーの内側後輪に弱めのブレーキをかけるシステムだ。クルマの後部が伸び上がろうとする“ヒーブ”を抑制することで、路面との接地感が高まるという。

 実際に990Sを静岡県内のワインディング路でSグレードと比較走行したところ、走り味がかなり上質で、ドライバーにとって安心感と楽しさが倍増しているように感じた。990Sのインテリア。上質なブルーを採用したパーツがアクセント(筆者撮影) © JBpress 提供 990Sのインテリア。上質なブルーを採用したパーツがアクセント(筆者撮影)

 筆者は、1989年にデビューした初代ロードスター(NA)から、2代目(NB)、3代目(NC)を日米欧の様々なシーンで走らせてきた。また、4代目(ND)では、2015年にスペイン・バルセロナで開催された国際試乗会に日本人ジャーナリストとしていち早く参加し、NDの詳細についてマツダ関係者とひざ詰めで意見交換したこともある。そうした過去の体験を踏まえて、今回の990SによるNDの飛躍にとても驚いている。静岡県内で開催された、マツダ「ロードスター」商品改良に伴う報道陣向け試乗会の様子(筆者撮影) © JBpress 提供 静岡県内で開催された、マツダ「ロードスター」商品改良に伴う報道陣向け試乗会の様子(筆者撮影)

マツダらしい電動化戦略を打ち出せるか?

 NDの開発総指揮を執るマツダ商品企画本部・主査の齋藤茂樹氏は、990S試乗会場とマツダ広島本社を結ぶオンライン会見の中で、「NDはとても引き出しの多いクルマであり、これからもまだまだ、改良を加えていきたい」と答えた。

 筆者は齋藤主査に「昨年(2021年)廣瀬専務の言及もあったが、電動化を含めてこれからのロードスターはどうなると思うか?」とも尋ねたのだが、「私あくまでもNDの主査。NDでやれることをやり切りたい」と答えるにとどめた。

 廣瀬専務の言及とは、研究開発とコスト革新統括を担当する専務執行役員の廣瀬一郎氏が、2021年6月17日、オンラインで行われた「2030年に向けた新たな技術・商品方針の発表」の中で語ったことを指す。質疑応答の中で筆者の「ロードスターは永遠に不滅か?」という問いに対して、廣瀬氏は「2030年の(技術開発)ロードマップに載っている」と明言した。つまりそれは、5代目(NE)となるであろう次期ロードスターがなんらかの電動化システムを搭載する可能性が高いことを意味する。

 直近の動きとしては、マツダは2022年中に、「ラージ商品群」と呼ぶ、縦置き直列エンジンを搭載するFR(後輪駆動車)を市場導入する可能性が高い。第1弾は、SUV「CX-60」になるとの見方がある。ラージ商品群での電動化については、日本市場での導入を前提に直列4気筒プラグインハイブリッド車の採用が決まっている。

 また、「SKYACTIV EV専用スケーラブルアーキテクチャー」によるEVを、2025年から2030年にかけて複数モデル導入することも明らかにしている。

 マツダの丸本明社長は、これまで何度も「電動化は、グローバルでの国や地域の社会状況に応じて柔軟に対応していく」と発言してきたが、欧州を基点とする急激なEVシフトの大潮流に対しても、マツダとして対応を急ぐことになるだろう。

 ただし、EVはメーカーの枠を超えた部品共通性が高いことや、また社会におけるコモディティ化という側面が強いため、メーカー個社の商品特性が表現しづらいとも言われている。そうした中で、マツダがこれからもマツダらしさを際立たせていくためにどうすればいいのか?

 マツダ社内のみならず、マツダとディーラーの間、そしてマツダとユーザーの間で情報共有の密度を高め、次の道筋を描いていかなければならない。マツダのモノづくり魂が凝縮している「ロードスター」には、マツダの未来を担う責務があるように感じる。

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