服は買うより借りる方が得なのか? 安さだけじゃない人気の秘密〈AERA〉

こんなに洋服があるのに、着ていく洋服がない!!そんな毎朝のクローゼットの前での憂鬱を解決してくれるサービスが、続々登場している。割安で便利、ファッションの常識が変わるかもしれない。

定額制のファッションレンタルサービスが、2年ほど前から続々とスタートしている。衣料レンタルと言えば、これまでは冠婚葬祭などの特別な機会のものが主流だった。いま話題になっているのは、ネットから申し込むだけで、毎日着る“普段着”が定額で借り放題になるというものだ。服は店で試着をし、気に入ったものを買うという“当たり前”が変わる日が来るかもしれない。

レンタルするのは、ただ安いからというだけではない。長尾二郎さん(38)は昨年4月からスタートしたleeapというメンズのファッションレンタルサービスを利用して服装に対する苦手意識を払拭した。1カ月1万2700円でカジュアルな服装が2コーデ分届き、返却すると次のコーデがレンタルできるという借り放題のコースで、スタイリストとLINEを通して服装への悩み、週末の予定に合う服装は何かなどを相談できる。個人の好みに合わせて、スタイリストが似合う服を選んで送ってくれる仕組みだ。1回で6万円相当の洋服が入っていてお得感もある。

「劣等感を感じていた分野に強力な味方ができた気分です」(長尾さん)

●ストレスが喜びに

自分のセンスには自信が持てず、その不安からこれまではファストファッションブランドの店舗に飾ってあるマネキンが着ているコーディネートをまるごと購入していた。店舗で店員と直接顔を合わせて相談するのには勇気が必要だった。その点、LINEでの相談は手軽だ。

「ある日、leeapから届いた箱を開けると、柄のハーフパンツにボーダーのシャツが入っていたんです。初めは驚きましたが、着てみるといい感じ。服装を褒めてもらえると、その日は“できる男”のようないい気分でした」

1着数万円のものを買ってもうまく着まわせないなら、レンタルのほうがコスパがいいと長尾さんは感じている。

「衣食住の衣がストレスだったんですが、それが喜びになるというのが想像以上に嬉しかった」

店舗に行った時の見方もファッション誌を見た時のとらえ方も変わった。そして新しくいい服が欲しくなってきたという。

leeapの場合は、30~40代のビジネスパーソンに利用者が多い。婚活向けに活用する男性もいる。leeapを運用しているキーザンキーザン代表取締役の井上大輔さん(36)は言う。

「気に入ったら購入もできるんですが、そういう要望が増えています」

●返却期限ナシも

女性向けのレンタルサービスでは、2015年2月に日本で初めて普段着のレンタルを始めたというエアークローゼットが人気だ。「新しい服と出合う機会を増やしていく」が目的で今年になり会員数が10万人を突破。利用者の多くは30代の働く女性だ。好みのスタイルやなりたいイメージを登録すると、スタイリストが選んだ服が3点送られてくる。気に入らなければ返却すればいい。感想や評価を伝えるとそれを踏まえてまた新しい服が送られてくる。気に入ったらそのまま購入も可能だ。2カ月未満の早いスパンで新しいデザインの服を仕入れ、それらを使った新鮮なコーディネートが提供されている。

代表取締役の天沼聰さん(37)がこのサービスを始めたきっかけは、自分よりも服をたくさん持っているのにクローゼットの前で着る服がないと悩む妻の姿だった。

「なぜかと考えたときに、手持ちの服だと着合わせが限られてしまうから変化が感じられないのではと思った。でも、ショッピングモールでは新しいお店になかなか足が向かないし、時間の使い方が変わってゆっくりファッション誌を見る時間がない。服と出合う機会が減っているのではないか」(天沼さん)

ライフスタイルを変えずに日々新しい服に触れ合う機会を増やせないかと考え、最終的に行き着いたのがレンタルだった。試す機会が増えれば、ファッションはもっと自由に楽しめる。

「月額制サービスにこだわったのは、忙しい女性に、サービスに追われるのではなく、ライフスタイルに合う方法で利用してほしいからです」

と天沼さんは言う。返却期限をもうけず、返却時のクリーニングも不要で手軽なのも特徴だ。

●プロから個別に助言

これらのサービスが利用者に喜ばれている理由のひとつは、定期的にプロからの個別アドバイスをもらえることだ。これまでのパーソナルスタイリングは、費用もハードルも高い印象があるが、ネットを使って低価格で気軽にスタイリストとやりとりをするサービスも登場している。昨年12月にスタートした女性向けのサービス「Let Me Know」は、初回のカウンセリングが3千円、翌月から月額1千円で利用できるパーソナルスタイリングだ。カウンセリングを受け、手持ちの服を写真で撮ってネットに登録すると、それらと新しいオススメアイテムとを組み合わせたスタイリング提案がスタイリストから毎月六つメルマガで届く。利用者の8割が30代の女性で、寄せられる服に関する悩みは大きく三つに分けられる。(1)体形が変わって似合う服がない、(2)管理職など立場が変わると何を着たらいいかわからない、(3)育児や仕事で買い物に行く時間がない。以前より人目が気になるようになったという利用者が多いという。

服への苦手意識が、ファッションへの関心を奪ってしまう。ストライプインターナショナルの木本由有さん(38)は言う。

「似合わないと思ったら返却すればいい。とにかくたくさんの服と触れ合ってほしい」

●スマホで気軽に選べる

服への関心がうすれてきているという若年層の人たちに少しでも安いお金でファッションを楽しんでもらい、次世代のブランドのファンを獲得したいという思いが、同社が提供するファッションレンタルアプリ「メチャカリ」にはある。ファッションレンタルは、洋服への関心のスタートアップだ。

「メチャカリ」では、等身大のモデルが着用する大量のコーディネート写真を参考に、着たい服を1度に3点選んで借りる。月に5800円の定額で利用期間内は何度とっかえひっかえしてもいい。洋服選びはスマホから数分でできてしまうし、返却は封筒や伝票が同封されていて近くのコンビニに洗わずにそのまま出せばいいだけなので驚くほど簡単だ。平均してひとり月に9着ほど借りるという。

貸し出す服がすべて新品なのも特徴である。返却された服は検品後にユーズドとして自社サイトで販売することで損益が成り立つビジネスモデルだ。

「メチャカリ」は自社でブランドを持つ会社が、レンタルに注力し始めたということで話題になったサービスでもある。

「自動車の場合、ディーラーでメンテナンスをして、古くなれば買い取りをして、販売するサイクルができている。SPA(製造小売り)もレンタルをしたっていいのではないかという発想からスタートしました」(木本さん)

繊研新聞の調査によれば、日本のファッション市場は9兆6千億円で、その中でEC市場は7250億円という。レンタルにチャレンジしているのはまだ10社程度で、100億円くらいの規模しかない。ファストファッションの効果により、ファッション市場規模はゆるく伸びているようだが、高級ブランドとファストファッションへの二極化が進み、その中間にあるブランドが苦戦を強いられているのが現状だ。木本さんは言う。

「日本のアパレルは斜陽産業だと考えている。今後いかにシェアを取れるかが勝負どころです」

現在の会員数は5千人だが、その6割が今までの顧客ではない層の人を獲得できているという。試しにレンタルで着てそのまま購入するという流れが仮に定着すれば、店舗で服を買わなくなる日が来るかもしれない。

●福利厚生としても

スタートアップ企業のレンタルサービスにおいて、どうアクティブユーザーを増やしていくのかが課題でもある。そんな中、異色のコラボが話題を呼んでいる。前出のエアークローゼットは不動産仲介のエイブルと組んで、エイブルで契約をした女性客を対象にレンタルを無料で行うというサービスを展開した。サスティナではシェアハウス内でレンタルできるサービスを提供したり、エディストクローゼットでは衣料レンタルサービスをGMOインターネットグループが社内向けに展開する福利厚生のサービスとして提供している。時間の使い方の変化や、ネットの活用が普及したことをとらえ、アパレルはどう変わり、どう対応するべきなのか。レンタルファッションサービスが未来に与える影響が楽しみだ。(編集部・柳堀栄子)

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