いまから28年前。朝日新聞の植村隆記者は元慰安婦の肉声を報じた。慰安婦報道の先駆けである。5年半前に朝日を辞め、61歳となった植村氏。慰安婦報道の功績によって韓国で表彰されちゃったというのだが、ちょっと待って。あれは誤報のはずでは……。
植村氏が受け取ったのは賞牌、つまりメダルと賞金1千万ウォン。日本円にして約93万円である。
植村氏は、よっぽど嬉しかったに違いない。なにしろ、氏は朝日を離れて国内外の大学で研究員や非常勤講師、客員教授に就いても、慰安婦誤報の批判を受け続けた。
そんななか、韓国の「李泳禧(リヨンヒ)財団」からすぐれたジャーナリストを顕彰する賞に選ばれたのである。
財団は韓国の著名な民主化運動家、故・李泳禧氏の名を冠しており、今回の賞は、年に1度、真実の追求に努めたジャーナリストに与えているものだ。
その表彰式が今月4日にソウル市内で行われ、植村氏は、おおむね次のような受賞の弁を述べている。
「賞の受賞は、“負けずに頑張れ”という韓国ジャーナリズム界の大きな励ましだと思います。私を応援してくれる韓国の皆さんに感謝します。この受賞をきっかけに日本と韓国のリベラル勢力の交流が一層深まることを願っております」
光栄に思っています
植村氏はそのスピーチのなかで、
「安倍政権下で河野談話が無力化し、日本の侵略戦争による被害の記憶継承作業に対する攻撃が相次いでいます。こんな危険な風潮を変えていかなければならないと思います」
といった熱い思いも披瀝したのだが、元週刊朝日編集長の川村二郎氏は、
「植村くんの記事については朝日新聞も誤りを認め、謝罪したうえで訂正しています。朝日の慰安婦報道に関する騒動の火付け役になったようなものですから、吉田証言による“慰安婦狩り”記事のように取り消しまではされていないとはいえ16件の取り消し記事と同じ穴のムジナ。賞を受けるなんて恥ずべきことです」
と憤り、
「韓国側にとって都合のいい記事だったから受賞したのでしょうが、記者は本来、イデオロギーに縛られることなく中立の立場で事実を報じるべきです。あれで賞をもらうなんてジャーナリストの風上にも置けません。93万円の賞金まで受け取るなどもってのほかです。まともなジャーナリストであれば賞も賞金も辞退すると思います」
元朝日新聞ソウル特派員でジャーナリストの前川惠司氏は、
「私個人としては、植村さんの記事は朝日新聞が世間の信用を失うきっかけだったのではないかと考えています。朝日OBのなかにすら功名心に逸(はや)って取材を疎かにしてしまった植村さんや記事にかかわった人たちのことをよく思っていない人は一定数いるでしょう」
こうした意見を、当の植村氏はどう受け止めるか。
「私の記事が取り消された事実はなく、元慰安婦の被害の真実を明らかにしたこととその後の闘いが韓国でも認められたことを光栄に思っています」
と、おっしゃるのである。堂々たる無反省ぶりには、もはや怒りを通り越して呆れるほかない。
「週刊新潮」2019年12月19日号 掲載