朝日新聞、また誤報で謝罪文掲載 記事取り消し被害者へお詫び、方針ありきのずさんな取材

社会福祉法人ひまわりの会が朝日新聞社を被告として提起した名誉棄損訴訟(東京地裁)において、昨日(4月16日)に和解が成立したことを踏まえ、ひまわりの会の訴訟代理人の立場で今回の裁判の結果をわかりやすく解説します。

昨年11月13日付当サイト記事『朝日新聞に新たな誤報疑惑 社会福祉法人が提訴 1億円以上被害与える、ルール逸脱の取材』は、誤った新聞記事内容で名 誉を傷つけられたとして、神奈川県川崎市の社会福祉法人ひまわりの会(現・社会福祉法人ハートフル記念会)と千葉新也理事長が朝日新聞に対し、計3300 万円の損害賠償と謝罪広告の掲載を求める訴訟を東京地裁に起こしたと報じました。

問題となっていたのは、朝日新聞の特集記事『報われぬ 国』の一つで、「社福法人の私物化」「ワンマン理事長“暴走”」「親族から備品購入」「報酬8倍」というセンセーショナルな見出しのもと、「寄付された土 地を理事長が独断で売却した」「規定も理事会決議もないのに理事長が独断で自分の報酬を8倍にした」「理事長が自分の親族の会社から備品を購入させた」と いった内容が掲載されていました。

記事の内容は、日本を代表する日刊紙である朝日新聞経済面に4段記事で掲載されたことにより、またテレ ビ番組『ひるおび!』(TBS系)で取り上げられたこともあり、ただちに世間に広まりました。その結果、ひまわりの会の関係者、入居者、その家族など数多 くの人が心配することとなりました。

さらには、社会福祉法人の運営は主に篤志家らの寄付などで賄われているため、朝日新聞記事により寄付の撤回などが相次ぎ、ひまわりの会は財政的な打撃も受けました。

ひまわりの会は、記事の内容はすべて事実無根であるとして、ただちに朝日新聞経済部に抗議するなどしましたが、やはり司法手続きをもって毀損された名誉の回復を図るべく、昨年7月、東京地裁に訴訟を提起しておりました。

●東京地裁、名誉棄損の成立を認める

朝日新聞側は、高名な秋山幹男弁護士が代理人に就任され、当初、名誉棄損の成立を争っていました。しかしその後、双方の主張整理が行われたのち、本年3 月、宮坂裁判長より「記事は事実に基づくものではなく名誉棄損が成立する。朝日新聞は記事を訂正し、謝罪する記事を掲載するという和解を検討すること」と の訴訟指揮がなされ、双方、和解協議を進めた結果、4月16日付にて和解が成立しました。なお和解内容は、概ね以下のとおりです。

・被告(朝日新聞)は、原告ら(ひまわりの会、千葉理事長)に対し、本件記事により原告らに迷惑を掛けたことについておわびするとともに、15年4月26日限り、別紙記事を被告発行の朝日新聞全国版の朝刊経済面に1回掲載する。
・被告は、今後も適正な報道がなされるよう努める。
・原告らは、その余の金銭的な請求を放棄する。

そして、上記和解に則り、朝日新聞は本日4月17日付朝刊経済面にて「訂正・謝罪文」を掲載するに至りました。

朝日新聞が「訂正」した内容は、概ね以下のとおりです。

・「ワンマン理事長“暴走”」「社福法人の私物化」「親族から備品購入」の見出しをすべて取り消し。
・「土地の使い方を理事会にはかった形跡はない」は、「土地を基本財産とするかどうかを理事会で明確にするように川崎市から指摘された。理事会では承認していた」と訂正。
・「理事長の報酬の増額について明確な規定も理事会の承認もなく」は、「理事長の報酬に関する規定を明確にするように川崎市から指摘された。理事会では承認していた」と訂正。
・「ひまわりの会が照明器具を理事長の親族の会社から購入した」は、「理事長の親族が社長を務める会社が、理事長の紹介で、以前、理事長が監査役を務めていた会社に照明器具を納めた。ひまわりの会が購入したわけではない」と訂正。

さらに、朝日新聞は「謝罪文」の中で、「事実関係の確認が不十分で、正確に記述しなかった」ことが今回の誤報の原因であるとしました。

●朝日新聞の勝手な「希望」

ひまわりの会の代理人弁護士として、朝日新聞の取材の段階から立ち会ってきた立場から今回の事件を総評するに、やはり「記者のおごり」が最大の原因と考えざるを得ません。

前出・当サイト記事にもコメントしましたが、朝日新聞の取材の後、ひまわりの会が提出を予定していた「理事会議事録」やその他の資料を確認すれば、ただち に「土地の売買に関する理事会決議」や「理事長報酬を決定する経緯や理事会決議」の存在が明らかとなるわけですから、本来、「理事会にはからずに土地を転 売した」「理事会の承認を得ずに理事長報酬を8倍にした」などといった誤報はあり得なかったわけです。

繰り返しますが、朝日新聞が、ひまわりの会が予定していた資料の提出をわずか数日でも待てば、ひまわりの会や理事長は名誉を傷つけられることもなく、ひまわりの会の関係者、入居者、そのご家族などが心配することはありませんでした。

結局、朝日新聞の特集『報われぬ国』において、記事の構成、方針として一度「社会福祉法人が私物化されている」ことをテーマに決めてしまった以上、これに 反する事実があっては困る、そのような資料はなかったことにしよう、掲載日も決まっているから今さら止められない、といった朝日新聞の勝手な「希望」が先 行してしまい、結果、なんの落ち度もない者が泣きを見るということを招来しています。

「都合の悪いことは見えなくなる」とは、人間誰であっても内在することと思います。しかし、報道に携わる者、その報道の影響力を知っている者こそは、今一度、自らが公表・報道しようとする事実の裏付け、客観的資料の確認をすべきと考えます。
(文=弁護士法人AVANCE LEGAL GROUPパートナー弁護士・山岸純、横浜支部長・豊田進士、弁護士・森惇一)

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