朝日記者、道新出版物から引き写し 事実上の盗用と認定

朝日新聞社は31日、朝刊北海道内版で12日と19日に掲載した連載記事「ひと模様 大道芸人 ギリヤーク尼ケ崎さん」の記述について、北海道新聞社が2016年に出版した写真集から引き写した部分が多数あったとして、同社に謝罪した。

 朝日新聞社は「事実上の盗用」と判断して連載を中止し、記事を取り消した。引き続き調査を進め、関係者を厳正に処分する。

 写真集は「ギリヤーク尼ケ崎 『鬼の踊り』から『祈りの踊り』へ」。写真集に収められたギリヤークさん(88)の随想の記述は、北海道新聞社が03年に夕刊で連載した記事がもとになっており、同社から22日、「連載、写真集の記述と似通った表現が複数ある」と指摘が寄せられた。朝日新聞社が調査した結果、写真集の記述と重なる表現が道内版の連載1回目で約4割、2回目で約8割あった。

 記事は函館支局の記者(42)が執筆した。社内調査に対して記者は、ギリヤークさんに計3回会って取材したが初回に取材が十分できなかったことなどから、2回目には写真集の記述をもとにした「下書き」も用意した、と説明。取材で下書き部分を確認するとともに、新たな情報を得たら上書きする形で記事を作成したという。

 記者は写真集の著者がギリヤークさんとなっていることから「ギリヤークさんの承諾を得て記述を使うことは問題ないと思った」と話した。しかし朝日新聞社は「仮に承諾を得たとしても、そうした記事作成の手法そのものが問題であり、事実上の盗用と言わざるを得ない」と判断した。

■読者の皆様に深くおわびします

 中村史郎・ゼネラルマネジャー兼東京本社編集局長の話 「刊行物からの引き写しは記者倫理に反する行為であり、絶対に許されることではありません。読者の皆さまの信頼を裏切ったこと、北海道新聞社やギリヤークさん、関係者の皆さまにご迷惑をおかけしたことを深くおわびします。社内調査を尽くすとともに、再発防止に努めます」

■記事取り消しの経緯

 朝刊地域面の北海道内版で12、19日に掲載された「ひと模様 大道芸人 ギリヤーク尼ケ崎さん」の連載を中止し、記事を取り消すに至った経緯について、これまでの調査で判明したことを説明します。

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 函館支局の記者(42)は、函館市出身のギリヤーク尼ケ崎さん(88)が昨年8月19日に市内で行った公演を取材し、翌日付の道内版に記事が掲載された。これを機にギリヤークさんの半生などについて取り上げる記事を執筆したいと思い、後日、北海道報道センター(札幌)の「ひと模様」の担当デスクに提案し、了承された。

 記者は10月中旬、ギリヤークさんの取材窓口に申し込み、承諾を得た。取材に備えて、過去の朝日新聞記事のほか、北海道新聞社出版の写真集「ギリヤーク尼ケ崎 『鬼の踊り』から『祈りの踊り』へ」などギリヤークさんに関する資料を集めた。

 11月20日に東京都内に住むギリヤークさんのもとを訪れて約3時間、1回目の取材を行った。しかし、ギリヤークさんの調子が万全でなく、取材が十分にできなかった。このため、記者は写真集の随想の記述をもとに原稿の「下書き」を作り、その内容を次の取材で確認して、新たな話が聞けたら上書きしようと考えた。

 この写真集の記述は北海道新聞社の夕刊連載がもとになっており、写真集の巻末に明記されていた。だが記者はそれに気づかず、「著者 ギリヤーク尼ケ崎」と記載されているのを見て、ギリヤークさんの承諾を得れば記述を使っても問題ないと考えたという。取材窓口に電話で相談し、了解を得たと思っていた。

 次の取材は12月20日に2時間強、21日に約1時間、東京都内で行った。ギリヤークさんの体調はよく、記者は「下書き」の内容を確認するとともに、それ以外の取材もできた。ただ、資料の引用箇所を指し示して詳しく説明することなどはしなかった。取材で聞いた内容を「下書き」に反映させて原稿をまとめた。

 記事はギリヤークさんが自ら語る形式だったため、記者は原稿執筆後、ギリヤークさん側とメールでやりとりし、事実関係が異なる点について修正した。

 担当デスクは、記者から1回目の取材がうまくいかなかったと報告を受けた際、資料を参考に記事を書くことを相談された。その場合、ギリヤークさん本人の証言や資料をもとに構成したという「おことわり」が必要になるかもしれないなどと議論したが、その後の取材でうまく話が聞けたとの報告を受けたため、つけないことになった。

 担当デスクは記者が書いた原稿を編集する段階で、文中のどの部分が取材で聞けた話なのか、どの資料をどの程度参考にしたのかなどを具体的に記者に確認しないまま、連載の1、2回目を記事化した。記者は報道センターの校閲担当に写真集などの資料を提出しておらず、チェック体制が機能しなかった。

 記者は社内調査で問題点を指摘された後、「すでに世に出ている文章をもとに記事を作成することは、記者としてあってはならない行為だった。取り返しの付かないことをしてしまった」と話している。

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 詳細は本社コーポレートサイト(https://www.asahi.com/corporate/)に掲載しています。

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