朝日vs産経「死ね死ね」論争は読者不在の場外乱闘

2つの全国紙が政治家の言葉を引き合いに、「死ね」「死ね」と連日書きまくる。異様な紙面に読者は困惑し、新聞の信頼はますます失墜していく。朝日と産経の批判合戦に、もはやつける薬はない。

“死ね死ね論争”の発端は、日本維新の会の足立康史・代議士がつぶやいた〈朝日新聞、死ね〉というツイッターの発言だ。

加計学園疑惑をスクープした朝日は文部科学省の審議会が同学園の獣医学部開設を認める答申を出すと、社説で〈あの『総理のご意向』をめぐる疑いが晴れたことには、まったくならない〉(11月11日付)と論評した。

これに足立氏がツイッターで「死ね」と噛みつき、朝日の加計疑惑追及報道を「捏造」と批判したのだ。朝日は黙っていられず、広報部が「事実無根の批判」「弊社の名誉を傷つけるもの」というコメントを出し、紙面でも大きく取り上げた。

バトルに喜んだのが産経新聞である。産経は足立氏のツイートを表向き〈対象が何であれ、「死ね」などという書き込みが許されるはずがない〉(17日付社説)とたしなめながらも、紙面には〈朝日、死ね〉という言葉をこれ見よがしに5日連続(15日から19日付まで)で大きく取り上げた。そのうえ、朝日が『政治家の言論 その荒廃ぶりを憂える』と題した18日付の社説で足立氏を批判すると、“待ってました”とばかりに翌19日付のコラムで「『死ね』を憂える荒廃した社説」の見出しを掲げてこう書いた。

〈思わず噴き出してしまった。「朝日新聞、死ね」とツイッターに書き込んだ日本維新の会の足立康史衆院議員を「根拠を示さないままの中傷」「その軽薄さに驚く」「低劣な罵り」などと、実に荒廃した表現で罵倒していたからだ〉(『編集局から』)

さらに産経はWEB版(18日)でも、〈足立氏のツイッターには「足立さん!刺されない様に気いつけて下さい」などと擁護する書き込みであふれた〉──と、足立氏擁護にみえる“朝日批判”を展開しているのだ。

加計学園疑惑については、朝日が安倍首相を追及したのに対して、産経は一貫して政権擁護の姿勢を取ってきた。だが、今回の「朝日、死ね」論争は政治スタンスの違いではなく、子供の口喧嘩かと思えるレベルの誹謗中傷合戦だ。

◆産経の部数を晒す

両紙がこれほどまでに“遺恨”を深めた原因と思われる記事がある。

朝日は11月3日付朝刊で、産経WEB版が「日本を貶める日本人をあぶり出せ」という見出しのコラムを配信したことを五段ぶち抜きで報じ、「『非国民狩り』を提起していて、もはや報道ではなく憎悪扇動ビラ」という批判のツイートを紹介。さらに、「新聞全体の部数が減少傾向の中、産経は『国益に奉仕しないものは排除する』という主張に共鳴する固定層をつかむ戦略で、部数や影響力を保とうとしているのではないか」という識者のコメントを報じ、産経の部数は約150万部だとわざわざ指摘した。

部数の落ち込み幅は朝日の方が大きいが、それでも朝日は624万部(2017年4月。ABC協会調べ)ある。その「大朝日」が、“産経は150万部しかないから苦し紛れに過激な主張をしている”と読める内容だ。

産経がこの記事にカチンと来て、“朝日憎し”を強めたことは想像に難くない。元朝日新聞論説委員の高成田享氏は、「間違いに対しては反論すべき」とした上で、行き過ぎを懸念する。

「『死ね』という言葉遣いだけで反撃しても不毛の争いになるだけです。本質を突く反論をすべきで、言葉に感情で返してはいけない。かつて朝日新聞はクオリティペーパーという立場から他媒体に反論はしなかったが、今はそうしないと情報が独り歩きしてしまう。だからこそ、言葉尻でなく堂々とした論陣を張って議論してもらいたい」

◆安倍叩きは社是

産経OBにも聞いた。元ニューヨーク支局長・山際澄夫氏が苦言を呈す。

「メディアが自由に批判し合うのはいいが、『死ね』をめぐって争うのは低レベル。産経はかつて慰安婦などの歴史問題で朝日の誤報を告発してきた。ただし、朝日さえ批判していればいいというのは違う。今はむしろ保守の立場から安倍政権を厳しく見ることのほうが重要だと思う」

中傷合戦はついに紙面を超えた場外乱闘に及んだ。

朝日は22日付紙面で、文芸評論家・小川栄太郎氏が著書で朝日の報道を「捏造」と書いたのは〈本社の名誉や信用を著しく傷つけた〉として、著者と出版元の飛鳥新社に謝罪と訂正を求める文書を送ったと報じた。

対して産経は抗議文は“うちにも来た”として同社が発行する月刊「正論」の菅原慎太郎編集長宛に、朝日から訂正を求める申し入れ書が届いたことを書いた。ご丁寧にコラムの記述と抗議の内容まで報じている。“また攻撃材料ができた”と喜んでいるフシさえ感じられる。

もはやそれぞれの体面を保つための記事で読者に情報を伝えようという姿勢のカケラもない。国民の新聞離れに拍車がかかるのは当然だろう。

※週刊ポスト2017年12月8日号

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