健康になるためには、どんな食事をとればいいのか。医師の南雲吉則さんは「糖質を控えるべきだ。特に朝食でご飯やパンなどの糖質をとることはデメリットが多くおすすめできない」という――。(第2回)
※本稿は、南雲吉則『体を冷やせば健康になる』(光文社)の一部を再編集したものです。
■健康のために私は朝食をとらない
英語で朝食のことをブレックファスト(Breakfast)といいます。「Break」はブレーキ、止める、破るという意味。「Fast」はファスティング、空腹の意味ですね。
空腹のときは、ミトコンドリアが酸素とともに脂肪を燃焼するミトコンドリアモードになっています。そして朝、白米やパンを食べて体を「糖質モード」にするのがブレックファストの本来の意味です。
でも、せっかくミトコンドリアモードの体を糖質モードにしては、もったいなくないですか。ミトコンドリアモードのとき、体内では次のようなことが起こっています。
◎脂肪を燃焼してダイエットモードになっている。
◎青魚のように持久力のある有酸素運動モードになっている。
◎ミトコンドリアが増えてがんを予防してくれる。
◎サーチュイン遺伝子(若返り遺伝子)が目覚め、成長ホルモン、アディポネクチンも分泌されて、体が若返っている。
一方、糖質を摂れば、体は次のような糖質モードに変化します。
◆脂肪が燃焼せず、糖輸送体が糖質を脂肪に変えるので太る。
◆瞬発力はあるが持久力がない無酸素運動モードになり、疲れやすくなる。
◆がん細胞にエサをやることになる。
◆血管の内皮細胞のコラーゲンと糖質が結合して、頑固なコゲである「終末糖化産物(AGE)」ができる。これが、動脈硬化の原因となり、体も老化する。
朝食に糖質を摂るということは、ミトコンドリアモードの健康作用を捨て、糖質モードのデメリットを受け入れるという行為になるのです。私はミトコンドリアモードを維持するために、朝は糖質を摂りません。
世間では「健康のため、朝食をしっかりとりましょう」ともいいますが、これもよいこととは思いません。
朝はお腹が空いていないことが多いからです。
グーッとお腹がなる前にとる食事は、体をミトコンドリアモードにはしないのです。
■朝食の代わりに食べているもの
「朝はきちんと食べなさい」
「脳を働かせるために、白米やパンを食べなさい」
「ご飯は残してはいけません」
ミトコンドリアモードで考えたら、すべてが間違いです。とくに起床後に胃もたれを感じるときには、食べてはいけないのです。
前日に胃の消化能力を超えて食べすぎたために、胃炎を起こしている状態です。胃炎は、痛みだけでなく、もたれという形でも現れます。そんなときに食べ物を送り込むのは、胃にムチ打つようなもの。もたれているときの胃に大切なのは休養。食べないことなのです。
ただ、何も口にしないのは寂しいですから、私は、ゴボウスープ(あじかん社製)を毎朝飲みます。ゴボウスープには、MCTオイルを大さじ1杯注ぎます。
写真=iStock.com/masa44
※写真はイメージです – 写真=iStock.com/masa44
MCTオイルとは、ココナッツオイルにも豊富な天然成分「中鎖脂肪酸(MCT)」のみでつくられたオイルのことです。
ミトコンドリアが脂肪を燃焼するまでには時間がかかりますが、MCTは通常のオイルに比べて吸収・分解が速く、効率よく「ケトン体」となってエネルギーを得られるのです。
エネルギーとして消費されるぶん、脂肪となって体に蓄えられる心配もありません。しかも、脂肪を燃焼させてエネルギーに変える作用もあるため、空腹時にMCTオイルを摂取することは、脂肪燃焼の呼び水になるのです。
ミトコンドリアモードを維持するには「空腹」、朝食をとるとしても「低糖質食」、糖質食を食べるとしても「MCTオイルの摂取」が有効なのです。
■コーヒーで目が覚めるのは軽い中毒症状
朝はコーヒー1杯、緑茶1杯ですませる、という人も多いと思います。体を糖質モードにしないので、一見よさそうですが、実はこれもNG。
空腹時にはコーヒーや緑茶などカフェインを含む飲み物はおすすめできません。カフェインは、「アルカロイド」という植物毒の一種です。植物は草食動物や昆虫に食べられないように、副交感神経を興奮させる神経毒を持っています。これを摂ると「二日酔い」のようにめまいや吐き気、下痢、心拍数の増加、冷や汗など、さまざまな不快な症状が現れます。
アルカロイドの仲間にはモルヒネやコカインなどの麻薬やニコチンがあります。コーヒーを飲むと目が覚めたり意識がはっきりしたりするのは、アルカロイドの軽い急性中毒症状が起こっている状態。
■なぜ「ごぼう茶」がおすすめなのか
午前中バリバリ働いていた会社員がお昼に白米やパン、麺などの糖質を食べると血糖値が急上昇。それを下げるためにインスリンが大量に分泌され「反応性低血糖」を起こすと、脳が働かなくなって眠くなります。そこで、目を覚ますためにコーヒーをがぶ飲みしたりタバコをスパスパ吸うのは最悪です。
さらに常用することでコーヒーを飲まずにいられなくなるのは、カフェイン依存症です。1日5杯以上飲む人は2杯までに減らしましょう。
飲み物としてのおすすめは、もちろんゴボウ茶です。カフェインが含まれませんから、朝はもちろん、一日中安心して飲めます。しかも、健康増進に役立つ最強の成分が含まれます。それが、ゴボウの皮に含まれている抗酸化物質「ポリフェノール」です。
ポリフェノールには抗菌作用、創傷治癒作用もあります。また水溶性食物繊維であるイヌリンも豊富なので、血糖値が上がりにくくなり、腸内の善玉菌のエサとなり棲家となりますので腸内環境が改善し、免疫力も上がります。
■空腹と空腹感は全く異なるもの
みなさんは、空腹と空腹感の違いをしっかり区別できているでしょうか。
空腹とはエネルギー源が枯渇した「飢餓」状態であり、お腹が「グーッ」となることによって知らせてくれます。
一方の空腹感とは、人がおいしそうに食べているのを見たらよだれが出てきたり、昼食の時間になるとお腹が空いたように感じたり、甘いものが食べたくて「小腹が空いた」といってみたりという状態。これらは飢餓とはまるで異なる感覚。
空腹感とはいわば、脳がつくり出した妄想なのです。
これは、脳の妄想が起こす高所恐怖症や閉所恐怖症などと似ています。実際には崩れることのない歩道橋や、閉じ込められることのないエレベーターに恐怖を感じるのと同じように、まだ飢餓状態になっていないのに空腹を感じるのはまさに「空腹恐怖症」。
糖質が枯渇すれば、ミトコンドリアが働いてエネルギーが産生されるというのに、脳はそれすら待ち切れず、糖質がつくる一瞬の爽快感が恋しくて、「空腹感」という妄想を見させてまで、糖質を摂らせようとしているのです。
多くの人は、空腹感を本当の空腹と勘違いして、際限なく食べ続けます。その結果、贅肉がつきスタイルが崩れ、それを悲観してストレスとなり、また食べ続け、やがて病気につながっていくのです。
■南雲医師の一日の食生活
私は毎朝、ゴボウスープにMCTオイルを入れたものをとったあと、夕食までとくに食べません。昼食はとると眠くなって仕事に専念できなくなるためとりません。
その間、お腹の脂肪がミトコンドリアによって燃焼し続けてくれるので絶好調で働けます。口が寂しいときはミックスナッツを食べます。そして夜、お腹がグーッとなったら腹一杯食べるのです。もちろんせっかくここまでがまんしたのですから、体に悪いものは食べません。新鮮な野菜とお肉を心ゆくまで楽しむことにしています。
■健康な身体に必要な4つの必須栄養
お腹が3回グーッとなったら食事タイムです。せっかくここまでミトコンドリアモードを維持して体が健康になったのに、食べるものにこだわらなければもったいないですよね。
ここでとりたいのは「必須栄養」です。
必須栄養とは「体の中でつくることができないので、外からとり入れなければいけない栄養」「生物が生きてゆくために摂取しなければならない栄養」のことです。
具体的には「ビタミン」「ミネラル」「必須アミノ酸」「必須脂肪酸」の4つです。私たちの体の中で燃焼してエネルギーになる栄養には「糖質」「タンパク質」「脂肪」の3つがありますが、糖質はタンパク質や脂肪からも作ることができるので必須栄養ではありません。
さっきまで生きていた野菜や小魚を丸ごと食べれば、生物が生きてゆくのに必要なすべての栄養を含んでいるわけですから「完全栄養」です。
写真=iStock.com/mythja
※写真はイメージです – 写真=iStock.com/mythja
穀物や豆やナッツも地面にまけば芽が生えて成長しますから、これも完全栄養です。牛乳も赤ちゃん牛がこれだけを飲んで成長できるのですから、すべての必須栄養を含んだ完全栄養。卵もここからヒナが生まれるのですから完全栄養です。
ところが私たち人は食物を食べやすく見栄えがいいように精製してしまいます。米は玄米のままなら生きていますので、ビタミン、ミネラル、ポリフェノール、食物繊維が豊富な完全栄養です。しかし白米にしてしまうとただのデンプン、栄養価が低く太るだけの食べ物になってしまいます。
ニンジンや大根も皮を剥いたら栄養価が著いちじるしく下がりますし、魚も切り身にして、皮も残してしまえば部分栄養です。
必須栄養をすべて含んだ完全栄養でいただくためには「穀物は全粒で」「魚は皮ごと骨ごと頭ごと」「野菜は皮ごと葉ごと根っこごと」調理するよう心がけてください。
■糖質、タンパク質、脂肪のどれが一番太るか
ミトコンドリアモードを維持するためには糖質を制限して、タンパク質や脂肪を摂ってください、というと「太りそう」という方がいらっしゃいます。
「摂取カロリーが多いと太る」といわれていますが、本当でしょうか。
南雲吉則『体を冷やせば健康になる』(光文社)
実際、糖質は1グラムが4キロカロリー、タンパク質も4キロカロリー、脂肪は倍以上の9キロカロリーもあります。
では、それぞれ100グラム食べたら、糖質とタンパク質と脂肪のどれが一番太ると思いますか?
多くの方はカロリーの一番多い脂肪だといいます。それでは、最新の栄養学で解説しましょう。タンパク質は脂肪に変換されないので、いくら摂っても太りません。
糖質を摂ると血糖値が上がり、膵すい臓からインスリンが分泌されます。それに反応して、脂肪の細胞膜にある「糖輸送体」というタンパク質が、糖質を脂肪細胞内にとり込んで脂肪に変えるため、糖質を摂ると太ります。
では脂肪はどうでしょうか。脂肪を摂ると脂肪細胞の中にある「ホルモン感受性リパーゼ」という酵素が働き、脂肪を分解して栄養素として血液中に放出し始めます。そのため、脂肪を摂ったときが一番痩せるのです。
ただし、脂肪と糖質を同時に摂ると真逆なことが起こります。末梢血管の内皮細胞にある「リポタンパクリパーゼ」という酵素が働き、血中の脂肪を分解し、脂肪細胞に押し込んでくるので、太るのです。
■カロリーではなく栄養素で食事を選ぶ
そもそもカロリー計算というのは、カロリーメーターという断熱材の箱の中でものを燃やしたとき、どのくらいの熱量が出るかを測定したものです。
確かに脂肪を燃やせば熱量を発します。同じようにガソリンを燃やせば熱量を発しますが、栄養にはなりません。箱の中で燃やして熱が出たとしても、体内では燃焼しないことが多いのです。すなわちカロリー計算そのものが間違っています。
食事を選ぶときは、それが何キロカロリーかよりも、糖質か、またはタンパク質や脂肪であるかによって選んでください。
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南雲 吉則(なぐも・よしのり)
医学博士 乳腺専門医/ナグモクリニック総院長
1955年生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京女子医科大学病院、東京慈恵会医科大学附属病院を経て、ナグモクリニックを開業。著書に『「空腹」が人を健康にする』など。2019年、鎌倉・稲村ヶ崎に自らがプロデュースする「日本料理 吟」をオープン。
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(医学博士 乳腺専門医/ナグモクリニック総院長 南雲 吉則)