朝鮮人の責任も問い韓日和解を説く「帝国の慰安婦」が訴訟騒ぎになる〝韓国の常識〟

 韓国における慰安婦問題は“反日”も絡んで根が深く、一筋縄では行かない。その象徴的な出来事が最近起きた。韓国で昨夏出版された「帝国の慰安婦」の内容が問題視され、元慰安婦9人が今年6月にソウル東部地裁へ販売差し止めの仮処分を申請し、著者である朴裕河(パクユハ)世宗大教授を名誉毀損(きそん)で提訴した。
 原告側が用意した報道資料によると、同書が元慰安婦らを「売春婦、日本軍の協力者」と描写し、「(元慰安婦たちは)日本軍の同志であったことを認め、大衆に被害者としてのイメージだけを伝えるべきではない」と主張し、元慰安婦らの名誉を傷つけたとしている。
 一方、被告側は本の内容が歪曲(わいきょく)されて受け取られている、として争う姿勢を見せている。朴氏は慶応大や早稲田大で学んだ知日家で、慰安婦問題をめぐる論客の一人でもある。「慰安婦は強制連行された日本軍の性奴隷」といった韓国の“常識”を覆す主張を繰り広げ、日本に謝罪や賠償を求めている支援団体「韓国挺身(ていしん)隊問題対策協議会」などが朴氏の言動を警戒してきたことは想像に難くない。
 問題となった同書について、韓国の主要紙、朝鮮日報(電子版、7月12日)が韓国のKAIST大教授の書評を掲載している。「慰安婦問題では朝鮮人も責任を避けられない、という指摘は認めざるを得ない。娘や妹を安値で売り渡した父や兄、貧しく純真な女性をだまして遠い異国の戦線に連れて行った業者、業者の違法行為をそそのかした区町村長、そして何よりも、無気力で無能な男性の責任は、いつか必ず問われるべきだ」と朴氏の主張に一部、同調している。また「本書を細かく読んでみると、韓日間の和解に向けた朴裕河教授の本心に疑う余地はない。元慰安婦を見下したり、冒涜(ぼうとく)したりする意図がなかったことも明白だ」と擁護している。
 この訴訟騒動について、米国のリベラル系インターネット新聞、ハフィントンポスト韓国版(6月23日)に、木村幹・神戸大教授が寄稿している。「『帝国の慰安婦』は昨年8月に既に出版されたものであり、今の段階で突如販売差し止め請求がなされるのはかなり奇異な感がある。背後には慰安婦運動をめぐる、支援団体と朴裕河間の対立も指摘される」という。
 さらに木村氏は「司法や社会の“常識”を利用して、ある特定の議論を封殺しようとするのは、慰安婦問題の解決、糾明を妨げるばかりでなく、その運動の信頼性を自ら大きく傷つけているだけだ」と支援団体を批判した。
 保守系の韓国紙、東亜日報(電子版、6月17日)は、朴氏が交流サイト(SNS)、フェイスブックを通して反論した内容を伝えている。「支援団体とマスコミが作った“韓国の常識”とは違う意見を言って無事だった人はいなかった。大統領も支援団体の批判を受けて自身の主張を曲げたことがある」と朴氏は指摘している。

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