朝鮮半島で有事が現実化した際、韓国に住む日本人や、その家族らを守ることができるのか、懸念が高まっている。外務省は在韓企業と対応策を共有しているとしているが、現地駐在員からは、情報の少なさなどから危機感や不安を訴える声も上がっている。
外務省は既に、韓国の滞在者・渡航者に対し朝鮮半島情勢に関する情報に注意するよう求める「スポット情報」を発信。併せて、大使館と現地の日本人コミュニティーが協力して作成した有事の際の連絡先などを記載した「安全マニュアル」を“熟読”して備えるよう呼びかけている。ただ、ある外務省関係者は「有事が現実化した場合の手続きは機微に触れる部分が多い。韓国内を刺激する具体的な対応は公表しづらい」と実情を説明する。
韓国に進出している多くの企業は現時点で“静観”の構えだ。大手商社の担当者は「帰国や出張禁止などの指示は出していない」。韓国内で「ユニクロ」の店舗を複数展開するファーストリテイリング(山口市)も「現時点で特段、通達などは出していない」と話す。独自の危機対応マニュアルを持ち、有事の連絡体制や安全確保策を構築している企業も多いという。
ただ、「現時点では仮定の話はしにくい」(大手IT会社の担当者)とする企業も。人命最優先で準備を進めても、有事の際に起こり得るリスクを全て想定するのは難しいからだ。一方、ある企業の現地駐在員は「大使館から危機の現状に関する情報提供がない」と不安を口にする。有事の際は家族が国外へ脱出できるように航空チケットを用意するなど、個人的に準備を重ねているという。
米国は昨秋、朝鮮半島での有事を想定し、大使館関係者や在韓米軍兵士の家族らが韓国から退避する訓練を実施したが、日本政府による同様の訓練はない。有事では陸路や海路といったルートで避難民が殺到する可能性がある。駐在員は「有事に大使館から情報を得るルートを確保できるのか。それに基づき日本人社会が冷静に行動できるのか」と不安をにじませた。