「9月18日」に起きたことの意味
9月18日に中国広東省深圳市で日本人学校に通う10歳の男子児童が登校中に刃物を持った男に襲われた事件で、19日未明にこの男子児童が死亡した。
9月18日は満州事変の発端となった柳条湖事件(南満州鉄道爆破事件)のあった日で、中国では国恥の日とされ、反日意識が焚き付けられる日となっている。したがって、今回の事件は日本人を狙った事件であるのは明らかだ。
中国側はこの件について、事件の概要を警察が発表する「警情通報」において、かなり異例の発表を行った。
今回の「警情通報」には「日本」という文字がない。被害を受けたのが日本人だとか、日本人学校に通っている小学生だという情報が、全然書かかれていない。未成年の「沈なにがし」という人が負傷するに至ったとしか書かれていないのだ。
そうすると、今回殺害された日本人小学生は沈〇〇さんという名前だってことになる。
日本人の中にも「沈」という姓の人もわずかながらいるようなので、中国側が日本人ではないかのようにでっち上げたとは断言はできないが、こんな中国人のような姓の人が被害にあったというのは本当なんだろうか。
この件については、香港の星島日報も疑問を呈している(星島日報、9月18日「深圳日童遇襲-警方通報傷者為-沈姓-未成年人-莫非是華人」)。
さらに言えば、未成年人としか書かれていないので、17歳くらいの「沈〇〇」さんという中国人が被害にあったようなイメージを与えたとしても不思議ではない。10歳の小学生が被害にあったということもわからないのだ。
主要メディア、SNSも沈黙
今回の「警情通報」でもうひとつ注目したいのが日付だ。実に異例なことに、本文中には18日としか書かれていない。2024年とか9月といった表記はここにはない。
だが、例えばこちらの別の事件の「警情通報」においては、一番最初のところに2023年2月2日と書いてあるのがわかる。
このように年月ともに記載するのが通例なのだが、今回は「年」どころか「月」の記載も行われていないのだ。
9月18日の事件で日本人が襲われたということだと、日本人を明らかに狙った犯行であるということが容易にわかるため、これをなるべく意識させないようにするために、ごまかすような書き方をしているのが想像できるだろう。
さらに、中国の主要メディアでは一切報道されておらず、中国版SNSの微博(ウェイボー)での議論すらブロックされたと、台湾の自由時報は報じた(自由時報、9月19日「日本男童深圳遇刺不治媒體噤聲、微博鎖討論 中國網友痛批無恥」)。
中国ではおよそ3か月前のことし6月にも東部の江蘇省蘇州市で日本人学校のスクールバスを待っていた日本人の母子が刃物を持った男に襲われて怪我を負い、スクールバスに乗り込もうとした犯人をスクールバス乗務員の胡友平さんが身を挺して守り、命を落とすという事件が起こった。
この事件についても日本人を狙った犯行であるのは明らかと言うべきものだったが、中国側はこれを打ち消す動きに出て、日本の主流派メディアも中国政府の発表をそのまま垂れ流した。
しかしながら、さすがに9月18日に日本人小学生に起こった事件について、日本や日本人に対する憎悪と関係ない事件だというのは、さすがに無理があるだろう。
現実には反日ヘイトは起き続けている
日本人に対するヘイト事件としては、つい先日の9月7日にも、中国の有名観光地となっている円明園で起こった事件のことを、韓国の朝鮮日報やハンギョレ新聞が日本語版でも報じている。円明園とは清代に作られた皇帝の庭園だ。
円明園を訪れていたふたりの日本人観光客を案内していた通訳が、写真を撮りたいから場所を空けてほしいと、その場にいた中国人にお願いしたところ、この中国人が拒絶したという事件だ。
この中国人は中国のショート動画のSNSで32万人のフォロワーを抱える「亜人」というインフルエンサーで、「亜人」は「オレに向かって、日本人のために『どけ』と言っているのか」と怒り始めた。そして「亜人」はこの一部始終を動画に撮影し、SNSにアップした。それでこの事件は広く知られるようになった。
「亜人」と日本人観光客との間のこのトラブルが大きくなる中で、円明園を管理する職員が現場にやってきたのだが、この職員も「日本人は入れない。日本人を憎んでいる。あいつらを追いやることに私も賛成だ」と話し出す始末だった。
結局、日本人観光客は騒ぎの末にその場所を離れざるをえなくなった。
私が非常に不思議に思うのは、どうしてこのような日本人に関する重大な情報が、日本のメディアにおいては報道されず、外国のメディアを通じてじゃないとわからないのかという点だ。
日本のメディアが中国の真実を報じないことによって、日本人は中国や中国人に対して当然持つべき警戒心を持たず、家族を連れて中国に渡るようなことが広く行われている。
一部の報道からすると、今回事件の犠牲になった小学生もランドセルをしていて、明らかに日本人だとわかったのではないかとの疑念も拭えない。
そうだとすれば、現地の日本人社会において、中国や中国人に対する警戒心が薄かったことを如実に物語っているということになるだろう。
しかしながら、中国においては徹底した反日教育が今なお行われており、日本人に対して明らかな偏見を持った人たちが作られ続けている。
こちらの画像は、日本兵に模した藁人形に向かって、銃剣を刺している中国の小学生の画像だが、こういうことを教育の一環として行っているのが中国なんだということを、殆どの日本人は知らないだろう。
中国の子どもたちは『日本=悪』という考えを植え付けられ、反日は愛国であり、正義であると見なすようになって育っている。
「李老师不是你老师(李先生はあなたの先生ではない)」という有名なXのアカウントでは、深圳で小学生の集団がみんなで日の丸を足で踏みつける動画がアップされた。つい先日の9月13日のことだ。
経済崩壊で自暴自棄の中国という危険性
こうした反日教育が広がっている割には、これまではこうした日本人を対象とした犯罪は低く抑えられてきた。それは中国が厳しい監視社会で犯罪が抑制されてきたということに加え、中国経済がどんどんと強くなる中で、中国の人たちには明るい希望もあったからだ。反日感情を持っていたとしても、犯罪を犯すことで自分の将来をダメにするのは、明らかに愚かな行動だった。
しかしながら目下の中国経済はまさに絶望的な状況になり、社会に絶望した人たちが、自暴自棄になって様々な犯罪行為に走るようになってきた。
今月に入ってからでも、9月3日に山東省泰安市の仏山中学で、スクールバスが暴走し、バスを待つ子供たちに列に突っ込み11人が死亡し、13人が負傷するという事件が起きた。
9月10日には、湖北省武漢市でも、車が通学中の子供たちの列に突っ込む事件が起こった。
9月11日には、江蘇省蘇州市で刃物を持った男が飲食店に押し入り、居合わせた女性を切りつける事件もあった。
明るい未来がやってくることなどまるで期待できない絶望的な経済状況の悪化によって、日頃抱えている不満をどこかでぶちまけるという行動を取る中国人が増えてきたのだ。そうした行動を取る中で、彼らが憎しみの対象として捉えている日本人に向けて怒りをぶちまけるということは、今後も十分に起こる可能性は高い。
日本政府はなぜ警告しない
こうした状況にもかかわらず、日本政府の対応は未だにゆるいとは言えないだろうか。
上川外相は再発防止策の検討を外務省の担当者に指示し、中国側に日本人の安全確保を求めていくことも明らかにした。
それらの処置が意味がないとは思わないし、そういう処置も重要だろう。だが、それだけで果たしてよいのか。
日本政府が中国側に反日教育をやめるように求めたという話は聞いたことがない。少なくとも公式的にはそのような求めが行われたことはないのではないか。
また、中国側の反日教育の危険なあり方について、日本政府は日本国民に対して説明したことがあっただろうか。
小学生が日の丸を踏みつけるようにしているとか、日本兵に模した藁人形を銃剣で突き刺すようなことを行わせているなんて情報提供を、日本政府が日本人に対して行い、日本企業に対して警告を発するようなことをやってきただろうか。
そういうことをやらないことによって、日本企業がどんどん中国に進出する状況を作り出していったのではないだろうか。
目下戦われている自民党の総裁選挙においても、この問題を真剣に考えていただきたいものだ。