本社機能の地方移転が広がる、在宅勤務の浸透で企業の意識にも変化

NTTは10月、社内業務が中心の総務や経営企画部門といった本社機能の一部を東京・大手町から、群馬県高崎市と京都市に移す試験を始めた。コロナ禍で在宅勤務が浸透したことをきっかけに、東京にある本社に出勤するという企業の意識に変化が出ている。

■NTTが試験

 NTTの経営企画部門で働く大和田洋介担当課長は、ほぼ毎日、首都圏にある自宅で働いている。月に数回、新幹線を使って高崎と京都のオフィスに出勤する。ビデオ会議も活用し、普段会えない社員と会う。「自然が多く、気分を変えて仕事ができる」と話す。

 本社機能の分散は、東京で大きな災害が発生した時に、業務を続ける狙いがある。今夏から、総務部門などで働く社員はテレワークが基本となり、居住地の制限をなくした。2か所の拠点で働く約200人の社員には転勤を命じておらず、必要な交通費を支給する。

 小田急電鉄は2023年2月、神奈川県に海老名本社を設け、東京・新宿と2拠点体制にする。本社配属約800人のうち、駅管理や沿線の観光業務を担う約450人が移る。神奈川に鉄道路線が多く、広報担当者は「現場と連携を深めるのが狙い」と説明する。

 工場がある製造業でも、本社機能を移す動きが出てきた。クラフトビールを生産するファーイーストブルーイングは昨年6月、山梨県小菅村に本社を移した。拠点集約で固定費を減らすことができた。転居を求めれば、退職する社員が出る恐れもあったが、在宅勤務の定着が助けになった。

 生産性の向上を期待する例も多い。大手芸能プロダクション、アミューズは昨年7月、本社を山梨県に置いた。富士山が近い場所で社員の創造性を育む。多くの社員は、都内に残るオフィスや在宅勤務を組み合わせており、常勤は社員の1割に満たないという。

■自治体が支援

 帝国データバンクによると、21年に首都圏4都県から、本社や主要機能を地方に移した企業は351社あった。前年より63社増え、1990年以降で最多だった。大阪府や茨城県、北海道が移転先に挙がっている。

 岡山市がオフィス整備費用の一部を補助するといった制度を設けるなど、受け入れを促す自治体は多い。政府も地方創生の観点から本社機能を移した企業に対し、減税措置を講じてきた。だが、人口が集まる東京を離れがたいとの声も多い。

 大和総研の神田慶司氏は、「コロナ禍でテレワークでできる業務が確認され、今後も本社機能の一部を移す例は出てくるだろう。ただ、交通の便が良く、情報が集まる首都圏に本社があるメリットは変わらない」と話している。

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