札幌「昼カラ」集団感染 名指しで「悪者」困惑

高齢者らが日中にカラオケを楽しむ「昼カラ」を巡り、札幌市は9日、市内1店舗で新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が発生したと公表し、他の利用者にも強く注意喚起した。介護予防や仲間づくりでカラオケを楽しむ高齢者や、感染防止に腐心する店舗関係者らは「悪者扱いされた」と困惑。介護や感染症の専門家は「適切な予防策を取った上で楽しんで」と助言している。  「カラオケは健康に良くストレス解消になるので、感染に気を付けて楽しんでほしい。カラオケが悪いというわけではない」。札幌市保健所の三觜雄所長は9日の会見冒頭で強調した。  一方でクラスター関連を除く5月以降の60代以上の感染者109人のうち24人が、陽性確認の日からさかのぼって2週間以内に昼カラを利用したことがあると公表。新たに認定されたクラスター以外は「感染源かは分からない」としたものの、利用に注意を促した。

高齢者「楽しみを奪わないで」

 「これじゃ、昼カラがコロナの温床と言われているみたい」。札幌市厚別区のカラオケ喫茶「深海魚」で9日、マスク姿で昼カラを楽しんだ同市厚別区の主婦(72)は不満を漏らす。  道の休業要請の全面解除を受け、同店は2日から営業を再開。カウンター付近に飛沫(ひまつ)を防ぐビニールシートを下げ、客に検温や手指の消毒を求めるほか、来店を常連客に限るなど対策も強化した。特にマイクは1曲歌い終わるたびアルコール消毒し、毎日閉店後に分解して洗う。  感染拡大前は主に60~90代が毎日20人ほど来ていたが、今の客足は多くて1日5人。同店のママ律子さんは「みんな元気にしているのか心配。なかなか来てほしいとも言えないし」と寂しそうに語る。  函館市でカラオケ喫茶を営む男性(76)も、席数を半分に減らすなど感染対策を徹底。2日の営業再開後の客足はいつもの半分だが、60~70代を中心に1日10人弱の常連が訪れる。男性は「カラオケが生きがいの高齢者も多く、休業を続ければ孤立化してしまう」。  札幌市中央区のスナックでも9日、昼カラを楽しむ高齢者がいた。3カ月ぶりに訪れた同市白石区の主婦(70)は「店はちゃんと感染対策をしていた。高齢者の楽しみを奪わないで」。6月に入り3度目の来店をした中央区の無職男性(71)は「1人暮らしで、自粛期間中は人に会わず1日中テレビを見て寝る生活だった。言葉もうまく出てこなくなった」と打ち明ける。

専門家「適切な『3密』対策を」

 日本介護予防協会(東京)は、高齢者のカラオケについて、認知症や誤嚥(ごえん)性肺炎の予防、免疫力の強化などの多くの効能があるとして推奨。式恵美子理事は「昼カラが危険という印象だけを強めるのではなく、行政は安全にカラオケを楽しめる対策を促すべきだ」と強調する。  カラオケの感染防止について、札幌保健医療大の小林清一教授(臨床免疫学)は「ポイントは『3密』になる場面を具体的に想像し、対策すること」と指摘。その上で《1》客同士が2メートル以上の距離をとるか、間に感染防止板を設ける《2》換気などで常に風通しを良くしておく《3》マイクを共用せず、1人触るごとに消毒する―の徹底を呼びかけている。(柳沢郷介、下山竜良、石垣総静、斉藤千絵)

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