【ソウル=豊浦潤一、吉田敏行】韓国の検察当局は8日、朴槿恵(パククネ)大統領の名誉を毀損(きそん)したとして、産経新聞の前ソウル支局長を在宅起訴するという強硬手段に打って出た。
韓国では、これまでにも政権側が批判的なメディアに対し、民事訴訟を起こしたり、刑事事件化したりして対抗してきた。しかし、国外の報道関係者が名誉毀損の刑事事件で起訴されるのは異例だ。
朴政権は、今回の産経の事件を含め、大統領個人の名誉に関わる事案に敏感に反応してきた。大統領府秘書室などは4月の旅客船沈没事故以降、韓国紙・ハンギョレを名誉毀損で訴えるなど、少なくとも5件の民事訴訟を起こした。
韓国の言論仲裁委員会によると、今年、国や自治体が報道機関に訂正や損害賠償を求めた件数は、6月までに101件に上った。メディアを訴えることが日常化しているとも言える。
だが、今回のケースでは市民団体の告発を受け、検察が刑事事件として捜査。韓国政府のより厳しい姿勢が浮かび上がる。
韓国では、批判的なメディアに対し、政権が検察の捜査という強硬手段で対抗するという図式が繰り返されてきた。
かつての軍事独裁政権下では韓国の報道機関は当局の検閲を受けていたが、1987年の民主化以後は、むしろ報道機関が絶大な影響力を発揮するようになった。これを受けて政権側は、報道機関を手なずけようと苦心してきた。その一方で、批判的なメディアが政権運営を著しく困難にする報道を行った場合は、検察が捜査し、けん制する材料として利用した。