村井知事「議案を取り下げることはない」 宿泊税説明会で強き貫く

村井嘉浩知事は12日夜、宮城県庁講堂で開いた県民向け宿泊税説明会に出席した。参加した旅館やホテルの経営者ら82人に財源確保の必要性を強調したが、制度の見直しや撤回を求める声が相次いだ。「強引だ」と厳しい意見も飛び交う中「税導入は撤回はしない」と押し通した。「導入後も観光客や宿泊事業者にアンケートも実施したい」と、反対論にも配慮する姿勢も見せた。宿泊税は1人1泊6000円(素泊まり分)以上に県内一律300円を課す。県は18日に開会する県議会9月定例会に条例案を提出する。

【動画】宮城県が「宿泊税」説明会、村井知事が出席

辛口な意見を浴びせられ、険しい表情を浮かべる場面も

 導入の見直しを求める県内の旅館やホテルの経営者が居並ぶ会場に、トップ自ら乗り込んだ。厳しい質問をぶつけられても努めて冷静に振る舞ったが、事業者の幅広い共感を得るまでには至らなかった。

 冒頭、村井知事は説明会向けに職員が作成した詳細な資料に目を落としながら、約15分にわたり導入の必要性を説いた。

 「持続的、安定的な観光振興の財源を確保するためには、宿泊税がどうしても必要だ。観光資源の磨き上げに活用させてほしい」

 インバウンド(訪日客)の誘客に力を入れ、今後、観光を基幹産業に位置づけると強調した。

 質問したのは20人。「導入が遅いぐらいだ」と後押しする声もあったが、7割は批判的だった。

 「白紙に戻してほしい」。県議会9月定例会に出す条例案を撤回するように繰り返し迫られた知事。「今の観光予算の5億円は維持するが、人口減で税収が減れば、これ以上増やすことはできない」と財政の厳しさを伝えて切り返した。

 課税根拠など制度設計の不備や使い道が不明な点には「まずはやらせていただいて、意見を聞きながら是正していく」と主張した。

 宿泊税を巡る、過去の知事の発言もやり玉に上がった。4日の定例記者会見で、説明会の位置づけを「不満の声を聞く機会になるが制度は変えない」と発言したことへの反発が出た。

 「傲慢(ごうまん)だ」「議論にならない」など辛口な意見を浴びせられ、時折、険しい表情を浮かべる場面も。「今回の意見を聞いても議案を取り下げることはない。これが終わりではない。議会を通過しても説明する機会は設けていく」と強気を貫いた。

 知事が「第1ラウンド」と位置づけた説明会は「大丈夫ですから」と、予定時間を自ら1時間延長、「聞く力」を演じてみせた。

 終了後、報道各社の取材に村井知事は「もっと厳しい意見も出ると思った。比較的理解してもらったのではないか。議会で可決してもらえるよう努力する」。論戦の場は18日に開会する県議会9月定例会に移る。

「業界が分断された」嘆きの声

 宿泊税導入に関する12日の県民向け説明会は「時期尚早だ」「観光振興に必要な手段」という参加者の声がぶつかった。観光振興へ団結を訴えた村井嘉浩知事を横目に「業界は分断された」との嘆きも漏れた。

 「通過儀礼に使われた」と悔しがったのは、仙台市・作並温泉の鷹泉閣岩松旅館の岩松広行社長(75)。過去の観光施策の検証を求めたが「返答に新しさはなかった。県のごり押しだ。これで業界が分断されてしまった」と嘆いた。

 「新型コロナが明け、やっとこれからという時なのに」と導入反対を訴えた南三陸町の南三陸ホテル観洋の阿部憲子女将(62)は「小規模事業者ら交流人口の受け皿を大事にしてほしい」と振り返った。

 元仙台国際空港取締役の岡崎克彦さん(64)はインバウンド誘致に携わっていた経験を踏まえて宿泊税が必要と主張。「導入するかしないかではなく、具体的な使い道こそ議論するべきだ」と求めた。

 旅館関連18団体でつくる「県・宿泊税を憂慮する会」の藤田謹一代表(76)は「なぜ宿泊税か、疑問が解けない」と繰り返し、「結論ありきで残念だ」と言葉少なに会場を後にした。

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