来年秋は「9連休」実現するか…低すぎる日本の有給消化率、模索する政府

「来月、有給休暇を取ります」。あなたの職場は、気軽にこう言える雰囲気はあるだろうか。もっとも昨今の景気回復で、休みどころじゃないという人もいるかもしれない。
 ただ、日本の有給消化率は39%と主要24カ国でダントツの最下位。こうした状況を改善しようと政府が休み方改革に着手している。そこで注目されているのが「秋の大型連休」構想だ。特に平成27年9月は土日と祝日が並んでおり、暦の上ではすでに5連休があるためあわせて有給を消化すれば、最大で9連休が可能となる。政府は観光振興による地域活性化と有給消化率の改善という“一石二鳥”を図りたい考えだが、新たに祝日を設けずに大型連休を実現するプランには困難を指摘する声も上がっている。
■有給消化率は最下位
 「長時間働いて、休まず会社にいることが偉くなる条件のような雰囲気を、しっかり休んで働く、メリハリがすばらしいという雰囲気に変えることが大事だ」-。9月26日の内閣府の休み方改革ワーキンググループ(WG)の初会合で、西村康稔内閣府副大臣はこう切り出した。
 まとまった休みを旅行などに活用してほしいと政府が議論を行う背景には、日本の有給消化率の低さがある。
 世界最大級のオンライン旅行会社、米エクスペディア社の「有給休暇・国際比較調査2013」によると、主要24カ国の2013年の有給消化率で日本は39%とダントツの最下位。100%のブラジルやフランスには遠く及ばず、23位の韓国の70%と比べてもその低さが際立つ。同社ホームページで公表されている調査には、「6年連続!有給消化率世界ワースト1位は日本」、「仕事の満足度が低い日本」と長時間労働の常態化や有給消化が進まない日本への厳しい文言が目立つ。
 だが、長時間休みなく働くにも関わらず日本の労働生産性は、2012年のOECD加盟国34カ国中21位と決して高くない。メリハリをつけて生産性の高い働き方を求め政府が改革を模索するのは当然ともいえる。
■秋の連休構想、再び
 有給消化率を上げるために議論の俎上に上がったのが秋の大型連休だ。平成27年は21年以来6年ぶりに9月の5連休があり、連休と次の土日の谷間となる木曜日と金曜日に有給を消化すれば9連休も可能となる。
 春はゴールデンウイーク、夏のお盆休み、冬は年末年始休暇とまとまった休みがあるが、秋は大型連休がない。これまでも土日祝日を軸に秋に大型連休をつくり有給消化や観光業を中心に地域経済活性化つなげる動きはたびたび検討されてきた。
 秋の連休構想の発端となったのは、月曜日を祝日とするハッピーマンデー制度だ。平成6年に財団法人余暇開発センター(当時)は、体育の日の移動で3連休を作ることが生み出す経済効果を5494億円と試算。10年に行われた祝日法の改正で、10月10日だった体育の日は、12年から10月の第2月曜日へと変更された。今では土日と月曜日が祝日の3連休としてすっかり定着している。
 一方、成功しなかったのが、平成19年に10月第2月曜日の体育の日と11月23日の勤労感謝の日を11月3日の文化の日の前後に移動して、有給の消化とあわせて10月下旬~11月上旬に連休を作る計画だ。
 当時与党だった、自民・公明両党で、予算のいらない景気対策かつ有給消化率の改善につながる「目玉政策」として検討された。
 ただ、勤労感謝の日が皇室神事の新嘗祭(にいなめさい)にあたるため変更に反発する声や祝日をたびたび変更することの問題点を指摘する声もあがり、結果的に立ち消えとなった。
 今回の議論では7年前の反省を踏まえ、法改正が必要な祝日の移動や新設は議論の対象としていない。ただ、働く人が有給を連休にあわせて取れるように、制度面でインセンティブをつくれるかがカギとなる。
■経済効果は2.3兆円
 観光庁が平成22年に行った試算では、秋に大型連休ができることの国内旅行への経済効果は最大で2兆3000億円になるとしている。JTBが24年10月に公表した「秋の大型連休」に対する約5000人へのWEBアンケート結果でも、秋に大型連休ができてほしいという人は53%、大型連休ができたら宿泊を伴う旅行やレジャーをしたいとした人は83%にも上った。こうした調査結果を見ると秋の連休構想は歓迎され、あっさり決まりそうにもみえるが、複雑な事情も見え隠れする。
 まず、働く人が都合良く有給を取れるかが大きな課題だ。連休ができれば、人出が予想される大型ショッピングモールや百貨店、観光施設や遊園地などで働く人など、業種によっては出勤を余儀なくされる。
 また子どもがいれば、親が有給を取れても子どもが学校を休めなければ、家族で宿泊を伴う旅行などに出かけるのは困難という課題も浮かぶ。
 東京都内で大手メーカーに勤める男性会社員(35)は、「繁忙期なら、連休でも全て出勤になることもある。連休前後に必ず有給をとるというのは無理な話。仕組みができても公務員ぐらいしか休めないのではないか」と批判的だ。
 政府の試みについて、立教大観光学部の野田健太郎教授は「長期的に有給消化率を上げるために連休を作るのは重要」と指摘する一方、「9連休だと海外旅行に出かける人が増え、国内観光業への経済効果は小さくなるかもしれない」と懸念を示す。
 たびたび議論されたが実現に結び着かなかった秋の大型連休。今度こそ実現し定着するのか。24日に、WGが取りまとめる報告書案の中身が注目される。(永田岳彦)

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