東レ、クラレが好調だ。2012年3月期の決算では、両社とも最高益を達成。今期も順調に事業が伸展すれば、2期連続更新も可能だろう。
斜陽とされていたはずの繊維産業。なぜここにきて躍進するのか。
東レの強さの要因は、「繊維業界の鴻海(ホンハイ)」ともいうべきビジネスモデルにある。シャープに出資し注目を集める台湾企業の鴻海は、米国、韓国などの電機メーカーからOEM生産を請け負い、業績を拡大してきた。東レもさまざまなメーカーと提携し、ヒット商品を送り出している。背景にあるのは、大量生産・垂直立ち上げを可能にする技術力と社内外の経営資源をまとめあげるオーケストレーション力だ。
最大のパートナーはユニクロを展開するファーストリテイリングである。両社は06年より「戦略的パートナーシップ」を締結。「ヒートテック」「ウルトラライトダウン」などの高機能商品を、低価格かつ世界同時に発売できるのは、東レの生産技術の恩恵だ。
そのほか半導体材料では韓サムスン電子、航空機の機体に使われる炭素繊維では米ボーイングとパートナー関係にある。有力企業と強固な信頼を築いていることも、強みのひとつだろう。
クラレの特徴は、徹底したニッチ市場戦略にある。近年の好調を牽引するのは親水性ポリマー事業分野だ。液晶ディスプレイに使われる偏光板材料では世界シェアの80%を有するほか、世界シェア首位の製品を多く持ち、競争力は極めて高い。これらの製品の競合はほとんど存在せず、今後も同社の業績を安定的に支えると予想される。
繊維産業は、他の産業と同じく新興国の台頭により規模を拡大している。だが、生産コストが高いはずの日本企業が競争優位に立つのは容易ではない。
東レとクラレは、他社にまねできない競争優位戦略を展開している点で共通している。逆に言えば、競争優位戦略を確立・遂行できなければ、コスト競争力で新興国企業に負けてしまうことになる。事実、東レに次いで業界2位の帝人は、主力事業のひとつである化成品の収益変動性などに苦しんでいる。
日本のすべての繊維メーカーが“復活”しているわけではない。東レ、クラレ躍進の秘密は、両社の弛まぬ経営努力の賜物なのだ。
(バークレイズ証券 アナリスト 山田幹也 構成=プレジデント編集部)