東京から「適度な距離」、埼玉に注目…秩父の業者「空き家ほぼない」

総務省が29日に発表した2020年の住民基本台帳に基づく人口移動報告で、埼玉県内への転入者が県外への転出者をどれだけ上回っているかを示す「転入超過数」は2万4271人と、全国3番目の多さとなった。県の分析では、4〜11月に限ってみると、転入超過数は全国最多だったという。新型コロナウイルス感染拡大の影響でテレワークの導入が進み、職場のある東京などから離れて暮らすことを考えた人が増えているほか、「適度な距離の地方」ということで、埼玉が注目されたとみられる。

 20年の人口移動報告によると、埼玉への転入超過数は、東京の3万1125人、神奈川の2万9574人に次ぐ多さだった。県内市町村では、さいたま市が1万922人と最多で、川口市が2383人、上尾市が1372人と続いた。

 また、県内63市町村の半数超の38自治体で転入超過となった。全国の都道府県でみても、半数を超える市町村が転入超過となっているのは埼玉と東京、神奈川、沖縄だけという。

 県の分析では、特に4〜11月でみた場合、転入超過数は1万1160人となり、全国で最も多かった。ある不動産業者は「春頃の転入が多かったのは、大学のリモート授業が長引くとみて実家に戻ってきた学生の影響もあると思う。だが、夏以降は、本格的に埼玉に生活拠点を移したがっている人が多かった」と語る。

移住促進へ県が動画

 県内への移住を促そうと、行政もPRに知恵を絞る。

 県は昨年10月から、1話10秒のミニドラマ「#埼玉物語」を制作し、「ユーチューブ」で公開。川口市出身で、ヒット映画「カメラを止めるな!」の主役で注目された濱津隆之さんが、東京から移住してきたサラリーマンを演じ、埼玉の魅力や暮らしやすさを紹介する。

 秩父市は17年度から、移住を検討している人向けに、木造住宅で暮らしを体験してもらう「お試し居住」を実施している。市担当者によると、移住への問い合わせは以前からあったが、「最近は、秩父で仕事を続けることを前提に相談する人が増えている」という。

 実際、移住先として県内の物件を求める人は増えている。秩父、横瀬、皆野、小鹿野、長瀞の5市町や宅建業者でつくる「ちちぶ空き家バンク」に参加する「依田商店」(秩父市)の依田英一郎社長によると、「取り扱っていた物件がほぼ売り切れた」という。

 都内のコンサルティング業の男性(55)は昨夏、皆野町の空き家を購入した。コロナ禍の中で、ウェブ会議システムを使って打ち合わせなどを続けるうちに、「仕事はどこにいてもできる」と考えるようになり、それまでも度々訪れていた秩父地域での物件購入を決めた。「何かあれば、すぐに都内に駆けつけられる安心感も大きかった」という。

 現在は、皆野町と東京を行ったり来たりしているが、今後は本格的に秩父地域で暮らすことも考えている。

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