東京の新築マンションがどんどん狭くなる事情 3LDKでも50㎡台、収納や書斎が部屋外の物件も

京成本線「堀切菖蒲園」駅から大通りを南東に進んだ東京都葛飾区の一角。地場デベロッパーが分譲マンションの建設を進めている。間取りはファミリー向けが中心。注目は、低層部なら3LDKでも4000万円強という若年層でも手が届く価格設定だ。

 ただし、3LDKといっても、実は専有面積は54.37平方メートルしかない。以前なら2LDKで売り出されている面積だ。廊下を短くしたり、柱を外に出したりするなど工夫の跡はあるものの、LDK(リビング・ダイニング・キッチンの合計)は約11.1帖とやや窮屈だ。モデルルームの営業担当者は、「しばらくはLDKとその隣の洋室を一緒に使い、お子さんが大きくなったら広い住戸に買い替えるのもお勧めです」と、2LDKのような使い方を勧める。

広さより価格の時代

 狭いのに3LDKというのは、昨今のマンション市場を象徴している。用地代や建築費といったマンションの原価が上昇する一方、購入者の予算は増えていない。そこで部屋の面積を小さくして単価を抑えることが、新築マンションのトレンドとなりつつある。冒頭のマンションが仮に65平方メートルだった場合、販売価格は5000万円を超え、購入可能な世帯はぐっと減ってしまう。

 マンション調査会社のトータルブレインによれば、リーマンショック以前は首都圏で供給された新築マンションのうち、3割超が80平方メートル以上だった。それが現在では1割強にとどまり、代わりに60平方メートル台の住戸の割合が2007年の16.7%から2019年には23.2%へと増加した。

 昨年販売が始まった大規模マンション「HARUMI FLAG」は、東京五輪の選手村跡地という開発経緯だけでなく、「3LDK80平方メートル台」という広さが話題を呼んだ。だがこれは、一昔前なら当たり前の広さだ。

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 中古市場で流通している物件に比べ、今の新築はリビングを筆頭に各部屋の面積が縮んでいる。さらにリビングに接する洋室には、多くの場合ウォールドア(引き戸)が採用されている。これを開け放つことでリビングとの仕切りがなくなり、狭いながらも開放感を演出できるためだ。

 収納スペースの縮小も激しい。和室がなくなり、押し入れも消滅。それとともに、従来ならクローゼットを配置していた部分まで居室に割いている。WIC(ウォークインクローゼット)とうたいつつ、実際はWIC内での身動きもままならないほどに狭い物件も珍しくない。

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 さらに、従来なら間取り図ではLDとKがそれぞれ独立して面積が記されていたが、最近は一緒くたに記す広告が増えている。キッチンの面積分だけリビングを広く見せたい、というデベロッパーの涙ぐましい努力が垣間見える。

原価が上がれば一層の面積縮小も

 用地代などの原価がさらに上昇すれば、デベロッパーはより一層の面積縮小を検討せざるをえない。目下、大手デベロッパーは「3LDKの限界値は60平方メートル台半ばあたり。居室や収納、キッチンの面積などで社内規定に準ずると、60平方メートルを切る3LDKは難しい」(三井不動産レジデンシャルの小林幹彦都市開発二部長)と話す。

 だが、ある大手デベロッパーの首脳は、「欧米のように玄関を小さくし、浴室もシャワーだけにすれば1坪節約できる」と打ち明ける。大手でも、50平方メートル台のファミリー向け住戸が登場するのは、時間の問題かもしれない。

 国は「多様なライフスタイルを想定した場合に必要と考えられる住宅の面積」として、都市部のマンションなら2人世帯で55平方メートル、3人世帯で75平方メートルと、住生活基本計画で規定する。デベロッパーの最近の動きは購入者の予算に合わせるための苦肉の策とはいえ、国の理想からは程遠い。

 また、業界団体である不動産公正取引協議会連合会は「LDK」の表示に必要な最低面積を2LDK以上なら10帖(16.2平方メートル)と2011年に定めている。今やその最低面積に近づきつつある。

 面積を狭くしたことによって部屋から失われた機能について、デベロッパーは「外注」することで補おうとしている。

 野村不動産や東京建物といった大手デベロッパーの新築マンションで導入が相次いでいるのは、ベンチャー企業「データサイエンスプロフェッショナルズ」が展開する宅配型トランクルームの「シェアクラ」だ。段ボール1箱から私物をトランクルームに保管できる。「新築マンションの収納スペースが減少しているため、自宅の収納と同じような感覚で利用できる収納サービスを目指したい」(同社)。

 三菱地所も同様の収納サービスを展開する「サマリー」へ、2018年に約9.4億円を出資した。すでに三菱地所が保有する都内の賃貸マンション2棟へ導入されているが、今後は新築マンションへの導入も視野に入れているという。

共用部が部屋を補完

 外注以外に、マンションの共用施設で住戸の機能を補完しようとする動きも進みつつある。大規模マンションでは共用施設のラウンジが住戸の応接室、ゲストルームが親族や友人が訪れた際の宿泊部屋として機能している。

 三菱地所レジデンスの浦手健司第三計画部長は、「働き方改革の影響で、マンション内にコワーキングスペースやスタディールームを設ける物件が今後増えてくるだろう」と見通す。実際、同社が販売中の「ザ・パークハウスオイコス鎌倉大船」では、共用施設のライブラリーラウンジに、コンセントの付いたテーブルを設置している。

 さらにデベロッパーからは「ライフスタイルが変化し、広い部屋を必要としない人が増えている」という声も上がる。夫婦共働きで日中は家に人がおらず自宅は寝に帰るだけという人が増え、子のいない世帯も多い。所有する私物が減り、収納もかつてほど必要なくなっている。つまり面積の狭い物件が増えているのはニーズに合わせてのことだというのだ。

 2020年も用地代と建築費が下がる兆しはない。面積は減りこそすれ増えはしないだろう。新築マンションは「うさぎ小屋」の色合いを一層強めている。

『週刊東洋経済』3月14日号(3月9日発売)の特集は「マンションの罠」です。

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