日本時間の9月8日、2020年夏期五輪の東京開催が決定。「日本にとって明るいニュースだ」と喜ぶ声が上がる一方で、「ほかにすべきことがあるはず」という否定的な意見もあり、各メディアが連日、続報を伝えている。
東京五輪招致委員会が発表した五輪開催による経済効果は、「2013年から2020年までの8年間で生産誘発額が約3兆円。付加価値誘発額が1.4兆円、雇用者所得誘発額は約7500億円」だが、これについては賛否両論あり、それぞれに振り幅があるようだ。
「週刊東洋経済」(東洋経済新報社/9月7日号)にコメントを寄せた都市政策・都市地域計画が専門で明治大学専門職大学院長の市川宏雄教授は、「3兆円どころか、実際には10兆円はいくだろう」と予測。開発が進んでいない臨海地区の開発も一気に行えると期待を寄せ、都心部での大地震に備える意味でも、都心で唯一、救護施設や一時避難者向けの施設が立てられる土地の開発には、大きな意味があると語った。
他方で、東京都は大会運営予算として4088億円の税金を積み立てており、「開催がなければ4088億円を都民の福祉に使える」という主張もある。同誌によれば、日本で開催された98年の長野冬季五輪においては、施設整備などで巨額の資金がかかり、02年度に約1.6兆円の県債残高を抱えてしまったという。五輪開催がなければ県民へのサービスを充実させることができたのではないか? 今回の東京五輪は「大いなる無駄遣い」になるのではないか? という見方もあるようだ。
12日付朝日新聞デジタル版は「東京五輪、決まったからには 招致反対の立場から注文」とのタイトルで、東京五輪反対派の意見をまとめている。
主に東日本大震災の被災地と絡めた議論が多く、「被災地を思えば東京だけ浮かれるわけにいかない」と唱えてきた漫画家のやくみつる氏は、「せめて五輪を機に防災に目配りした都市整備が進めば、開催もむだにはならないと思うが」とコメント。また、震災発生直後から現地の取材を重ね、五輪については「廃炉への道筋がついてから東北で開催してほしい」と主張してきたジャーナリストの津田大介氏は、「決まった以上、盛り上がってほしい」としつつ、「原発事故の対応に政府が本腰を入れ、東京に来た人が被災地など地方を訪れるような観光動線をうまく作ってほしい」との希望を語っている。
●批判強める韓国
またネットユーザーの間では、お隣・韓国が東京開催への批判を繰り返しているとして話題になっている。8日付J-CASTニュース記事によると、韓国の有力紙の「朝鮮日報」や「中央日報」は8月から9月にかけての社説などで、「日本は放射能問題の解決より五輪招致が重要なのか」「汚染水問題を解決できなければ五輪招致を自主的に放棄すべき」などと論じてきた。ネット上では、「富士山が爆発して韓国で開催される」「開催地の変更はまだ可能」といった書き込みもあるという。
こうした状況に対し、「韓国は政府も国民も五輪やスポーツを政治利用することを恥と思わない」と厳しい言葉を投げかけたのは「週刊ポスト」(小学館/9月13日号)だ。同誌は、東京五輪妨害工作の前面に立った「VANK(バンク)」という市民団体について紹介している。VANKは高校生以下の学生を中心とした組織で、「韓国には市民団体の国威発揚活動に補助金を出す制度があり、VANKにも政府から補助金が出ている」(産経新聞ソウル駐在特別記者の黒田勝弘氏)。18年に平昌での冬季オリンピック開催をひかえる韓国にとって、政府が露骨に反五輪を訴えれば、国家の品格を問われる事態にもなりかねない――黒田氏は韓国政府がそう考えているとしており、同誌は「それを税金を使って未成年にやらせているとすれば、『国家の品格』が聞いて呆れる」とまとめている。
治安のよさや、昨今の五輪において物議を醸しているドーピング問題への意識の高さなどもあり、世界では東京での五輪開催を好意的に伝える報道が多く見られる。一方で、国内外で原発問題の影響に対する懸念が大きく語られているのも事実だ。開催が決まったからには、反対派が指摘する問題点を整理、解消し、日本と世界にとってより有意義な大会になるよう努力することが重要だといえそうだ。
(文=blueprint)