日本は世界的に見ても酒の規制が極めて少ない“呑んべぇ天国”だが、4月1日、厚労省に「アルコール健康障害対策推進室」という部署が新設された。国際的に広がるアルコール規制を日本でも推進するためだ。
アルコール規制は世界的な流れだ。WHO(国際保健機関)は「世界で毎年約330万人が死亡している」として2010年に「アルコールの有害な使用を減らすための世界戦略」を採択した。
その中で各国が取り組む酒害対策の例として「酒の安売り禁止」「飲食店での飲み放題禁止」「酒類の広告規制」などをあげ、酒の値段の引き上げ(酒税の税率アップ)、公共の場所での販売規制などが推奨されている。
すでに世界では欧米はじめ、シンガポール、インド、タイなどアジア諸国にも規制の動きが急速に広がっている。日本も2013年に「アルコール健康障害対策基本法」を制定し、アルコール健康障害対策基本計画をまとめた。
政府のアルコール規制の大義名分が医療費削減だ。日本人の喫煙率は19.3%(約2300万人)なのに対して、飲酒率は男性の83.1%、女性の60.9%(合わせて約7472万人)とはるかに高い。厚生労働省研究班の調査では、このうち健康被害が予想される問題飲酒の人は1353万人にのぼる。飲み過ぎによる病気やけがの治療にかかる医療費は年間1兆226億円と推計されている。
さらに、飲酒による事故、労働損失を加えた社会的損失は年間推定3兆947億円で、医療費との合計は年間4兆1483億円に達する。アルコール飲料の国内市場規模は約3兆6000億円だから、「飲酒は経済効果より損失の方が大きい」という論理である。
そして飲酒規制の実現性が高いのは、WHOのアルコール世界戦略が酒造メーカーと共同で推進されていることだ。
「WHOはタバコの場合は廃絶を目的にしているが、アルコールについては酒造メーカーの国際団体とも協議しながら有害な使用を減らすという目標を掲げた。
WHOの世界戦略には、酒の廉価販売禁止、飲み放題の禁止があるが、実は、それらは酒メーカーも困っている商慣習。小売り店が廉価販売で競争すればメーカー間でも値引き合戦になる。飲食店が定額で飲み放題にすると、提供する酒は安いものばかりになり、メーカーは儲からない。
そうした商慣習をやめさせたい酒造業界と飲み過ぎによる健康被害を抑制したいWHOの利害は一致しており、共同で規制を推進している側面もある」(アルコール規制推進団体の幹部)
さらに飲み過ぎを防ぐために酒税を大幅に上げる(価格の引き上げ)というWHO戦略は、財務省も大賛成だろう。タバコ規制に関わってきた厚労省官僚が予告する。
「日本のアルコール規制は遅れている。世界のほとんどの国では公園やビーチなど公共の場所での飲酒は禁止が常識で、外国人観光客は公園で花見酒に酔い、大学の学園祭で学生が酒を出す日本の飲酒習慣に驚いている。
受動喫煙防止法が成立すれば、次は東京五輪に向けてアルコール規制の議論を本格化させることになるだろう。具体的な検討課題は自動販売機の全面禁止、屋外や公共施設での飲酒の規制、店での飲み放題禁止などになるはずだ」
お上による“花見酒禁止令”が迫っている。
※週刊ポスト2017年4月28日号